がんは増加しているように思いますが本当でしょうか?
「がんが増加している」という表現はとても曖昧です。まず、増加しているのが「がんで亡くなる人」なのか「がんを発症する人」なのかを区別する必要があります。国立がん研究センターがん情報サービスのグラフデータベースでは簡単に日本のがんの現状をグラフにしてみることができます。(http://gdb.ganjoho.jp/graph_db/index?lang=ja)今回はそのサイトをのぞきながら回答いたします。
第一に、がんで亡くなる人は増加していますし、がん死亡率(1年あたりにがんで亡くなった人÷総人口)も増加しています。しかし、それは日本全体が高齢化したためと考えられます。がんは高齢者のほうが亡くなる危険が高い病気なので、日本人全体が高齢化するとがんで亡くなる人が増加するからです。実際に、全体の高齢化がなかったと仮定した死亡率(年齢調整死亡率といいます)では、1990年代後半から死亡率は低下を続けています。つまり、高齢化がなければがんで亡くなる人は減少しているということになります。
第二に、がんを発症する(罹患するともいいます)人は、増加しているか減少しているかが分からないというのが正直な答えです。1年間で何人ががんを発症したかは、がん登録を使って数えることができます。がん登録は、がん患者さんを診療した医療機関が各患者さんの診療内容などを都道府県に届け出る仕組みです。ただ、残念なことに、日本ではずっと登録漏れ(=診療したのに届け出ない)が多く、正確ながん患者さんの数は分かりませんでした。そのため、都道府県ではさまざまな取り組みを実施し、次第に登録漏れが減少しました。また、2016年から病院には届出が法的に義務付けられ、登録漏れが劇的に減少しています。登録漏れが減少すると、本当はがんを発症する人が増加していなくても、がん登録上はがん発症者が増加したようにみえます。これまで、国立がん研究センターが集計したがん発症率(1年あたりにがんを発症した人÷総人口)は、高齢化の有無にかかわらず増加しています。しかし、それは本当にがんを発症した人が増加したのか、あるいはがん登録の登録漏れが減少しただけなのかは分かりません。
弘前大学大学院医学研究科医学医療情報学講座 助教
田中 里奈
出典 The Way Forward No.19, 2021年