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がんQ&A

がん予防

がん予防

がん予防ワクチン

 ワクチンは元々感染症の予防のために誕生しました。子宮頸がんに代表されるように、病原微生物(この場合HPV(ヒトパピローマウイルス))によって引き起こされるがんを予防するという目的で使用されるのはよく理解できます。一方、感染以外の因子によって起こるがんの発生を防ぐためにもワクチンの開発が進んでいると聞きます。このワクチンはどのような仕組みでがんを予防できるのでしょうか。また、がんになってしまってから接種しても効果はあるのでしょうか。    

 小生が大学院生の時に、同系マウス(ほとんど同じ遺伝子を持つマウス)の癌細胞を放射線照射で半殺し後に皮下移植して拒絶(ワクチン)したマウスに、再度同じ癌細胞を放射線照射せずに移植しても全く生着しなかった経験があります。残念ながら元気な癌細胞を移植して生着した後に放射線照射で半殺しにした癌細胞(ワクチン)を移植しても生着していた癌細胞はどんどん大きくなってマウスは助かりませんでした。このような事象を考えると、癌予防の意味での癌ワクチンは有効かもしれませんが、我々人間に同系は一卵性双生児しか当てはまりませんし、同じ癌細胞を予め作製して半殺しにしてから接種するなど全く現実的ではないと思われます。実際は後者のようにできてしまった癌に対してワクチンを投与して治療を行うという状況になります。

 詳細は日本がん免疫学会のホームページのワクチン療法(ペプチド・DC)の項(https://jaci.jp/patient/immune-cell/immune-cell-07/)を参考にして頂きたいのですが、癌ワクチン療法としては主に①ペプチドワクチン療法、②遺伝子ワクチン(DNAワクチン、RNAワクチン)療法、③樹状細胞(DC)ワクチン療法が挙げられます。①ペプチドワクチン療法では癌細胞に特異的な抗原蛋白質の一部であるペプチドを②遺伝子ワクチン(DNAワクチン、RNAワクチン)療法では癌細胞に特異的な抗原蛋白質をコードする遺伝子を投与して樹状細胞に代表される抗原提示細胞に癌抗原を提示させることで癌細胞を攻撃するヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞を誘導・活性化させて癌細胞を傷害させます。③樹状細胞(DC)ワクチン療法では患者さんの体の中ではなく試験管の中で癌特異抗原を提示する抗原提示細胞を誘導・活性化した後に患者さんの体内に移入してヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞を誘導・活性化させて癌細胞に対抗させます。

 これら癌ワクチン療法は、まだまだ発展していくと思われますので将来が楽しみですが、ワクチンの本来の意味での癌予防として我々が福音を受けられる肝細胞癌予防としての『HBVワクチン』、子宮頸癌と頭頚部癌(中咽頭癌)予防としての『HPVワクチン』、そして、ワクチンではありませんが胃癌予防としてのピロリ菌除菌を受けることが肝要です。

 

北海道医療大学先端研究推進センター 教授 

蔵満 保宏

The Way Forward No.27, 2025

 

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