非小細胞肺がんの患者にオプジーボとかキイトルーダのような免疫チェックポイント阻害剤を使うことで相当の効果が期待されるといわれます。ただ、多くの患者はその効果を期待できないまま副作用に苦しむ人も少なくないといわれているようです。それならむしろ今までの抗がん剤と違いがないのではないかという考えも出て来るかと思います。
肺がんに対する効果の有無を予め予測する方法はどの程度進んでいるのでしょうか?
オプジーボやキイトルーダをはじめとするPD-1/PD-L1阻害薬は肺がんや悪性黒色腫をはじめとする数多くのがんで効果を示すことが報告されており、標準治療のひとつとして、広く実地診療で用いられています。しかしながら、治療を受けた肺がん患者さんの半分以上がPD-1/PD-L1阻害薬に十分に反応しないため、治療効果を予測するバイオマーカーが必要とされてきました。
現在、臨床現場ではがん細胞におけるPD-L1発現や遺伝子変異数をバイオマーカーとして用いることによってある程度、治療効果を予測することができます。しかし、まだまだ十分とは言えず、より高精度に治療効果を予測することが求められています。新たなバイオマーカーの探索に向けて、がん細胞の遺伝子異常によってつくられるがん抗原(ネオ抗原)や免疫回避メカニズムに関する研究、患者さん側の腫瘍に対する免疫反応に直接関わる腫瘍浸潤免疫細胞や免疫バランスにスポットを当てた研究が進んでいます。その際に最新の研究手法、たとえば、がんの微小環境(*1)におけるシングルセル解析(*2)や空間解析(*3)、マルチオミックス解析(*4)、さらには機会学習やAI(人工知能)などが駆使されています。近い将来、より高精度に治療効果を予測できるようになることが期待されます。併せて、副作用予測にも威力を発揮することが期待されます。がん免疫プレシジョン(精密)医療という概念も出てきています。
*1 がんの微小環境はがん細胞の他に、様々な種類の免疫細胞や炎症細胞などの細胞成分、血管やリンパ管、さらには非細胞成分で構成されています。
*2 シングルセル解析は、単一の細胞に焦点を当てて、DNAレベルや遺伝発現、さらにはタンパク質発現の解析を行う技術。
*3 空間解析は、がん組織切片を用いて、各細胞の遺伝子やタンパク質の発現を定量するだけでなく、各細胞の位置情報も同時に取得して空間情報と紐づけて解析する技術。
*4 マルチオミックス解析は、DNAレベル、mRNA遺伝子発現、タンパク質発現など複数の分子情報を調べて組み合わせる技術。
北海道大学名誉教授・特任教授 秋田 弘俊
The Way Forward No.24, 2023