日本で行なわれているがん検診のあり方が必ずしも国際的な評価が得られていないということを耳にしました。なぜ評価されないのでしょうか。そうであれば次の段階、国際的な標準に近づけるにはどうしたらいいでしょうか?
わが国では国民のすべての対象者を分母にした正確ながん検診の受診率は計算できません。その原因はがん検診の実施形態が対策型検診、任意型検診、職域におけるがん検診に分かれるためです。対策型検診とは、市区町村が健康増進法に基づき、公費を用いて地域住民に対して行なうものです。受診率は「国民健康保険の被保険者数」を分母とし、「国民健康保険の被保険者のうち市町村事業におけるがん検診を受診した者」を分子として、市町村ごとに正確な数値が公表されます。任意型検診とは人間ドックが代表で、個人のがん死亡リスクの軽減を目的に行なわれ、法律の規定がないので対象や方法には制限はありません。職域においてもがん検診は行なわれますが、労働安全衛生法にはがん検診の規定がないので、健康管理の一環として実施されます。事業所には実施義務も報告義務もありません。がん検診が実施されていない中小零細企業は多くあります。すなわち、わが国で正確な受診率を把握できているのは対策型検診のみで、任意型や職域で行なわれたものについては詳細を把握する仕組みなく、受診者の状況すら不明です。そのため、わが国のがん検診受診率は平成16年から3年ごとに一部の国民に実施される「国民生活基礎調査」に検診に関する質問が追加され、その回答を基にした推計値が報告されています。あくまでも個人のアンケートですので、医療機関で診療の一環として行なわれた検査を検診と誤って認識していたり、検査法や検査時期の記憶違いもあり、あくまでも推計値で正確な受診率ではありません。
外国では組織型検診と呼ばれる仕組みが世界標準であり、対象者の網羅的な名簿に基づいた個別の受診勧奨と再勧奨が行なわれ、高いがん検診受診率が実現できています。わが国のがん検診受診率を国際比較すると、乳がん検診(40~69歳)ではアメリカ76%、韓国74%、フランス70%でOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均が54%ですが、わが国は45%に留まります。子宮頸がん検診(20~69歳)ではドイツ78%、フランス73%、アメリカ72%でOEC加盟国の平均が53%、わが国は44%でいずれも国際的に低い状況です。わが国で信頼できる対策型検診の受診率は胃がん、大腸がん、肺がんは6~7%で、子宮頸がんと乳がんは約15%です。同じアンケート調査では職域でのがん検診受診が3~5割と回答されていますので、実際の受診率は報告されている推計値より低いと思われます。
有効性のあるがん検診を、厳重に管理する仕組みの上で、できるだけ多くの対象者に行なうことが、がん死亡率の減少につながることになります。そのためにも、わが国でも正確な受診率が判明する制度を構築する必要があります。わが国のがん検診を国際標準である組織型検診に転換することが最終目標です。職域でのがん検診や任意型検診においても、法律を整備して国が推奨するがん検診については実施義務と報告義務を課すことが必要です。対策型と同様に、それらの技術・体制指導、プロセス指標を評価すべきと考えます。令和5年からの「がん対策推進基本計画第4期」ではがん検診受診率の目標は60%以上の達成ですが、不正確な受診率の放置は世界に顔向けできません。
(公財)北海道対がん協会会長
加藤 元嗣
The Way Forward No.26, 2024