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がんを正しく知る

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がん細胞のお隣の正常細胞との関係とは?

 がんの芽(初期のがん細胞)は毎日いくつも誕生し、そのほとんどは免疫を司る細胞によって摘み取られているといわれています。先日、新聞記事を読んでいて、免疫機構とは異なる、超初期段階のがん細胞が周囲の正常細胞によって排除される「細胞競合」という現象があることを知りました。この「細胞競合」は、具体的にはどのようにしてがん細胞を排除するのでしょうか? また、がん予防の観点から、「細胞競合」を盛んにしたり、逆に抑制するような環境要因は知られているのでしょうか?

 正常な細胞層の中に、突然変異などで異常な細胞(変異細胞)が生じると、正常細胞がその存在を感知し、積極的に正常細胞層から排除することが、最近の研究で分かってきました。このように、正常細胞とがん化した変異細胞が互いに生存を争う現象を「細胞競合」と呼びます。正常細胞は、様々なタイプのがん化した細胞を認識することができることが明らかになっていますが、どのような違いをどのように認識するかについては、まだよく分かっていません。
 正常細胞と変異細胞の境界部では、正常細胞、変異細胞の両者に様々な変化が起こり、その結果、変異細胞の排除が促進されます。それらの変化はかなり複雑で、がん化のタイプ(変異するがん遺伝子の種類など)によっても、異なります。例えば、Rasというがん遺伝子が変異した細胞が正常細胞に囲まれると、正常細胞内でビメンチンという繊維状のタンパク質がRas変異細胞を取り囲むように集積し、変異細胞を管腔側へ押し出す物理的な力(収縮力)を産み出します。ただ、どのような分子がどのように働いてがん化した細胞を排除するのか、その全貌については、まだ完全には分かっていません。
 また、最近のマウスを用いた研究によって、肥満や炎症のような環境要因ががん細胞の排除を抑制することが分かってきました。がん細胞に隣接する正常細胞も、健康な状態であることが重要なようです。その他の環境要因(老化、喫煙、睡眠不足など)が細胞競合にどのような影響を与えるかについては、今後の検討課題です。また、細胞競合を促進する薬剤や環境が見つかれば、がん予防につながる可能性があります。細胞競合研究のさらなる発展に期待して頂ければ幸いです。

京都大学医学研究科分子腫瘍学分野教授 藤田恭之
出典 The Way Forward No.18 2020年

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