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がんを正しく知る

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がん細胞は話し合っている?

 正常細胞は臓器のなかにあっても細胞同士が話し合っているといわれています。その「話し合っている」というのは具体的にどういうことなのでしょうか? ところが、その細胞ががん化すると話し合いを止めてしまうともお聞きしました。なぜ話し合いを止めてしまうのでしょうか?

1)ホルモンのような液性因子による細胞間の会話

 私たちの体は多くの細胞からできています。これらの細胞は、1つの個体を維持するために、お互いに情報のやり取り、すなわち細胞間で話し合いをしています。細胞間の情報伝達の方法は、さまざまな様式のものが知られています。例えば、下垂体で作られた甲状腺刺激ホルモンは、血液を介して甲状腺の細胞に作用して甲状腺ホルモンの産生・分泌を促します。これは下垂体の細胞が話し手で甲状腺の細胞が聞き手になっていると理解できます。話し言葉としては、ホルモン以外にサイトカイン、増殖因子などさまざまなものが知られています。いずれにしてもこれらを介した話し合いは、正常(安定状態)では言葉を荒げることなく穏やかに行われています。しかし、ストレス刺激や病原体侵入のような緊急時には、大声で周囲の細胞に呼びかけたり、耳に手を当てて集音したり、逆に話すのをやめてしまったりします。そして緊急事態を脱すると、元の健常な状態の会話に戻ります。さて、がんではどうかという質問ですが、がん化したからといってこのタイプの会話をやめてしまうとは限りません。多くの場合は、無秩序な、結果としてがん細胞がますます増えて活発に動き回るのを鼓舞するような話になっているようです。

2)ギャップジャンクションを介した細胞間の会話

 一方で、ギャップジャンクションと呼ばれる隣り合う細胞間に形成された土管様の構造物を介して細胞同士が話し合うことも知られています。四半世紀ほど前に培養系を駆使して、このギャップジャンクションを介した細胞間の会話とがんとの関係がいくつかの研究室で検討されています。その結果、(1)正常細胞をがん化させると周囲の正常細胞との間の会話が途絶える、(2)高転移性のがん細胞は低転移性のものに比べがん細胞同士の会話が少ない、(3)周囲の正常細胞と会話しないがん細胞は転移しやすいなどの報告がなされています。

 研究室ごとに解析の目的も使っている細胞も異なりますので、確固たる結論を導くには無理がありますが、がん細胞は、がん細胞同士あるいは周りの正常細胞とギャップジャンクションを介した会話をしなくなる傾向にあるようです。この現象の意義については推測の域を出ませんが、ギャップジャンクションを介した話し合いは秩序正しい細胞社会の形成に役立っているのではないでしょうか。そしてがん化によるこの話し合いの低下はがんの不均一性(さまざまな性格のがん細胞が出現する)を産む要因の一つになっているのではないでしょうか。

 

北海道医療大学特任教授 浜田 淳一 
The Way Forward No.25, 2024

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