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がんQ&A

がん予防

がん予防

がん転移の予防

 がんの予防のために、タバコ、運動、食事、アルコールなどといろいろなことが言われております。同じ予防といっても、がんそのものの発生を予防するのとは別に、がん転移の予防についてお伺いいたします。  がんが出来てもそのがんに転移がなければ比較的治りやすいものと思います。転移があるからがんが怖い病気と認識されるとしますと、転移がないがんを作る試みというのはあるのでしょうか?人間ではどのようなことをすれば、同じがんが出来たとしても転移のないようながんを期待できるのでしょうか?

 まず、転移、について再確認をいたしましょう。転移というのは、がんが出来て(これを原発巣などと呼びます)、その場所から離れた組織、例えばリンパ節や、そのほかの臓器にがん細胞が移動して、そこで増殖をすることを指します。
 そして、がんでお亡くなりになる方のほとんどの原因が、この転移にあります。つまりがん細胞が転移先の臓器で増殖して、その臓器の機能を麻痺させたり、全身に転移して、体の栄養を奪ってしまうことで、残念ながら患者さんは命の危機を迎えます。
 つまり、がんになっても、がんが転移していても、その転移の量が少なかったり、臓器の機能が著しく損なわれなかった場合は、平気で普通の健康な人と変わりなく生活ができることになります。実際に、がんが骨や肺に転移していても、それがあまり大きくならずに、何年も元気でお過ごしになっている患者さんはたくさんおいでです。
 ですから、ご質問のように、がんは転移さえコントロールできれば、怖くない、とも言えます。しかし、残念ながら、この転移をうまくコントロールできるお薬や特効薬がないために、それぞれのがん種にあった抗がん剤や、放射線治療などで、なんとか転移したがんをあまり増えないように、またさらに別の箇所に転移を広げないようにコントロールしていく工夫をしているわけです。
 さて、ご質問にあった、どうしたら転移をなくせるか?ですが、これが問題ですね。先ほども述べましたように、残念ながら転移を抑え込むために特化したお薬は存在しません。ですから、多くの患者さんが、がんが見つかって、最初の治療を終えて、一旦はがんが治ったように見えても、再発するのに怯えながら生活を送らざるを得ないのが現実です。
 でも、研究レベルでは、その再発のメカニズムが世界中の研究者によって、徐々に解き明かされつつあり、また再発予防のためのお薬の開発も進んでいますので、がんになった場合でも、なんとか生き延びてさえいれば、転移を防ぐためのお薬が近い将来に登場するかもしれません。
 また回答者である私どもの研究でも、新しい転移のメカニズムを解明しつつありますので、ご紹介しておきます。
 一つは「エクソソーム」にまつわる研究です。エクソソームとは、がん細胞が分泌する小さな顆粒ですが、この顆粒こそが、がんの転移の鍵を握る物質だったのです。現在、このがん細胞が分泌する顆粒を抑えこむことで、動物レベルの実験では、がんの転移を見事に消し去ることに成功していますので、今後の開発に期待をしてください。
 もう一つは、「自律神経」に関する話題です。自律神経は、わたくしたちのすべての臓器の働きを調整している神経ですが、実は、体の中にできる「がん」にも自立神経が張り巡らされることがわかりました。そして、自立神経のうち、交感神経がたくさん入った場合、残念ながら転移性のタチの悪いがんであることが明らかになったのです。その逆に、副交感神経がリッチながんの方は、とても長生きされていました。なぜそのような差が生まれるのかは不思議ですが、交感神経と副交感神経の切り替えを上手くすることで、がんの転移をコントロールできるのではないか、そう考えています。具体的には、この自律神経の働きは、体の免疫機能とかかわっているため、上手く交感神経と副交感神経のスイッチングをするような生活を送ることで(入浴、運動、睡眠など)、免疫力を高め、がんと共存することができるはずです。
 この辺りのお話は、KAWADE書房から8月に発売されている新書、「がん」は止められる(落谷孝広 著)に詳しく書かれていますので、ご参考になさってください。
 また追記ですが、最近、乳がんや前立腺がん、大腸がんの患者さんが、ビタミンD3を摂取することで、ガンの転移率を下げられたとの大規模な試験結果が発表されています。ビタミンD3は、サプリメントで取らなくても、太陽に浴びるだけで体内で合成されますので、このようなことも大いに参考になりますね。

 

東京医科大学医学総合研究所分子細胞治療学部門教授 落谷孝広
出典 The Way Forward No.18 2020年

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