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がん治療について

がん治療について

がん間質ターゲティング療法テスト

 抗がん剤とDDS、がん間質ターゲティング(CAST)療法のメカニズムや、基礎的~Translational researchについて、一般市民、患者に対してわかりやすく解説していただけますでしょうか?

    Drug Delivery System (DDS) 製剤はEnhanced Permeability and Retention (EPR)効果に基づき開発されてきています。EPR効果とは生体親和性の高い高分子物質が腎からの濾過をうけず、肝臓のような網内系臓器に捕獲されず、血中を長く循環し、その間に血管透過性の亢進した腫瘍局所に溜り続けるというという現象のことです。世界中の薬学、有機化学、材料工学などの多くの分野においてEPR効果が証明され、多くの薬物デリバリー、遺伝子デリバリーの剤型が開発され、一部は臨床応用されています。しかしながら、DDS製剤そのものががん治療の分野において主流となっていません。
 固形がんは腫瘍血管に栄養されており、薬剤も腫瘍血管から漏出することにより、がん細胞を攻撃します。がんは塊であり、塊そのものも漏出した薬剤のバリアとなります、さらに臨床の固形がんではがん間質が豊富であり、この間質もバリアとなります。我々はがんの悪性度が高いほど、血液凝固が亢進し、それに基づき豊富ながん間質が形成されることを明らかにしました。標的の腫瘍が血管内に存在する白血病と異なり、がんの塊の治療戦略においては、そのようなバリアの克服が重要です。
 がん間質には不溶性フィブリン(IF)も豊富であり、我々はIF特異的抗体の樹立に成功し、その抗体はIFが形成されたときのみに露出するくぼみ構造を認識することを明らかにしました。抗IF抗体にIF上でのみ活性化されているプラスミンで切断されるリンカーで抗がん剤を結合した抗体抗がん剤複合体ADCを作製しました。抗IF-ADCはEPR効果でがん間質に漏出後集積し、IFに結合し、プラスミンで抗がん剤がリリースされ、リリースされた抗がん剤は低分子故に固形がん組織中で均一に分布でき、効率良くがん細胞を障害します。プラスミンはIF以外の場所では生体内に存在するプラスミン阻害物質で完全に中和されるので、抗がん剤のリリースはIF上でのみ起きます。さらに腫瘍血管にも作用します。本治療法をがん間質ターゲティング療法Cancer Stromal Targeting (CAST)療法と命名しました。

 

 

国立がん研究センター研究所客員研究員 / (株)凛研究所研究担当取締役

松村保広
出典 The Way Forward No.20, 2021年

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