肝がんはB型やC型肝炎ウイルスの感染がきっかけとなって発生するものがほとんどだと思っておりましたが、最近、ウイルス感染がなくても、脂肪肝から発生するタイプの肝がんも増えてきていると聞きました。どうして肝臓に脂肪が蓄積すると肝がんができるのでしょうか。またその予防方法はあるのでしょうか。
脂肪肝は良性疾患と考えられていましたが,非アルコール性でも一部は脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)に移行し,さら肝硬変に進展して肝がんの発症原因となることが近年,明らかになってきました。
脂肪肝から肝硬変や肝がんに進展する原因として,内臓脂肪蓄積により生じるインスリン抵抗性やレプチン,アディポネクチンなどのいわゆるアディポサイトカインの分泌異常など,複数の因子が作用すると考えられています。またNASHと関連の強い複数の遺伝子変異が特定され,遺伝的要因も関係することも分かってきました。元々の遺伝的素因に加えて,生活習慣による環境因子がDNAメチル化の異常などを惹起して発症というのは,他の生活習慣病と同じです。以前は肝細胞への脂肪沈着と炎症・線維化の進展の二段階に分けて説明する単純な「two-hit theory」で理解されていました。近年は複数の因子が同時に作用することで病態が進展する,とするより複雑な「multiple-parallel hit hypothesis」なる仮説が広く受け入れられています。
肝硬変に進展すると,その原因に関わらず肝がん発症のリスクが高まります。NASHでは,肝硬変にまで進んでいないのに肝発がんを生じた例が多く報告されています。その発がんのメカニズム解明に挑んだ研究があります。肥満により腸内細菌叢が変化し,有害な菌体成分や細菌が分泌する液性因子が血流に乗って腸管から肝臓に運ばれます。そしてそれらの成分や因子が肝星細胞の老化を促進し,肝発がんを促進する環境を作り上げることが動物実験で証明されました。
NASHの治療は生活習慣の改善が基本で,肝がん予防のためにも,肥満が原因の場合は食事・運動療法が治療の原則になります。糖尿病や高脂血症など合併症の治療も重要です。肝硬変への進展を疑う指標のひとつに,3項目の血液検査値(AST,ALT,血小板数)と年齢から計算するFIB-4 indexがあります。2.67以上で肝硬変に進展している可能性が高く, 1.3~1.5以上を目安に腹部エコーなどの検査を受けることが,肝がんの早期発見につながります。特に糖尿病患者さんや肥満傾向の方は,かかりつけ医や肝臓専門医にご相談ください。
肝エラストメーターを併用すると、肝臓の硬さや脂肪の量を数値で評価することが可能です。
埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科准教授
中山伸朗
出典 The Way Forward No.20, 2021年