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スピリチュアル・ヘルスとは?

 緩和ケアが広く理解されつつあり、とくにスピリチュアル・ケアの真意が理解されつつあるように思われます。ところが最近、スピリチュアル・ヘルスという言葉も登場してきました。がん治療におけるスピリチュアル・ケアとスピリチュアル・ヘルスとどういう関係にあるのでしょうか? 関係があってもなくても、スピリチュアル・ヘルスとはどういうことでしょうか? 何を狙っての新しい言葉の登場なのでしょうか?  

 世界保健機関WHOの執行理事会では、同機関設立憲章前文にある健康の定義を修正しようという発議が過去4回ありました。すなわち「健康とは単に疾病または病弱であるということにとどまらず、身体的physical、精神的mental、社会的socialに完全にウエルビーングwell-beingな状態をいう」という健康の定義に「スピリチュアルspiritual」を追加すべきかどうか議論されてきたのです。このスピリチュアル・ヘルスとは明確な定義がされているわけではありませんが、概ね生きる目的や意味を認識したり、ありのままの自分を受け入れたりする健康のことを言います。よくメンタル・ヘルスと混同されがちですが、これは脳内の電気化学的神経システムに基づくヘルスであり医薬品などの治療行為の対象になるのに対して、スピリチュアル・ヘルスとはQOLなど質に基づくものであり、薬で治るものではありません。

 もっとも最近のWHOでの発議は1998年にアラブ圏の理事国からの提案によるものでした。賛成22票、反対0票、白票8票で、結局第52回世界保健総会へ提案されたものの、本格審議されることなく保留扱いとなってしまいました。国内でスピリチュアル・ヘルスの統一したイメージがまだ出来上がっていないためにこの定義を加えることに躊躇した日本政府も、白票を投じた一つの理事国でした。

 WHOで議論されるスピリチュアル・ヘルスが問題になるのは、例えばがんに罹患し余命が告知されたときのような生命の危機に直面した場合があります。なぜ自分は死ぬのだろう、生きていた証は何だろうというような魂の叫びからスピリチュアル・ヘルスを病み、その痛みを和らげることがスピリチュアル・ケアなのです。その他にも災害にあったり、人生に躓いたり、自分の特殊性が気になってありのままの自分を受け入れることができないような場合にもスピリチュアル・ヘルスは危機に陥ります。WHOの発議をしたアラブ圏のイスラム教のように神と人との明確な関係性をもっている宗教は人生の目的や意味を示してくれます。他方、無宗教や多神教が多い日本人にとってその意味合いが意識化あるいは言語化されてはいない場合にスピリチュアル・ヘルスはなかなか日本人にとって存在意義を認識しがたいのではないでしょうか。しかし、宗教を持つ如何に関わらず全ての人は生きている意味を感じ、自分らしさを肯定することで生き生きとしたウエルビーングの状況に達することは間違いありません。これがスピリチュアル・ヘルスなのです。

 

 

順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域・大学院医学研究科

グローバルヘルスリサーチ教授 湯浅資之

出典 The Way Forward No.17, 2020年

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