65歳の男性です。先日、下の奥歯の1本を入れ歯にしました。入れ歯や虫歯は口のがんの発生リスクを高めると聞いたのですが、どうしてですか?また、どうすればその予防につながりますか?
人は親知らずを除いて全部で28本の永久歯を持っています。「8020運動」をご存じでしょうか? 1989年より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われてるため、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いが込められています。令和4年歯科疾患実態調査では、8020達成者率は51.6%と推計されています。
一方で、年々歯を失うために、入れ歯を使用している人は加齢とともに増加します。部分入れ歯には歯に固定するためのクラスプという蟹の爪の様な装置がついています。
もし、クラスプのかかる歯を失った場合、舌や頬の粘膜を強くこするため潰瘍の原因になります。同様に入れ歯のピンクの部分が周りの粘膜に強くあたることでも潰瘍ができます。そのまま使い続けると機械刺激により慢性の炎症が引き起こされ、これが口腔がん(舌や歯ぐきのがんなど)を誘発すると考えられています。また、また、歯ぐきの下にある骨は吸収と形成を繰り返しその形は変化します。入れ歯を入れていても形が変化するために徐々に入れ歯が合わなくなります。そうすると骨と入れ歯に挟まれた歯ぐきが部分的に強くこすれて潰瘍を形成し、がんになるリスクがあるといわれています。
歯を失うのは口の衛生状態が不良で、むし歯や歯周病になってしまったからです。このむし歯や歯周病を引き起こすのは常に口の中にいる口腔常在菌という様々な細菌の集団です。近年、「むし歯が多い」または「歯周病にかかっている」と口腔がんになるリスクが高くなることがわかってきました。これは口腔常在菌が粘膜をがんに変える、またはより悪いタイプのがんに変化させる作用を持っているからだと考えられています。
「口のがんを予防」するには、歯ブラシなどにより口腔の衛生状態を良好に保ち、入れ歯などに違和感があるときはすぐにかかりつけの歯科医を受診しましょう。また、口のがんは進行するまで痛みはなく気づかないことが多いので、大丈夫と思っていても3~6か月間隔で健診や入れ歯の調整でかかりつけ医を定期的に受診することが大切です。
北海道大学大学院歯学研究院口腔病態学分野
口腔顎顔面外科学教室 教授
大廣 洋一
The Way Forward No.26, 2024