先に札幌医大の加茂先生からお教えいただいたようなわが国におけるがんの罹患年齢、死亡年齢の延びは年月とともに高齢化しているといわれております。 従来、がんの罹患率とか死亡率とか「率」だけに固定した考えが多かったと思いますが、率だけでなく「年齢」のことも十分考慮すべきでないかと思うのです。例えば人間の死亡率は100%ですが、何歳のときに死んだかが大事なことになります。同じようにがんにかかる(罹患)としても、何歳のときにかかったか、もし罹患年齢が高齢化すればそれに伴って死亡年齢も高齢化することは当然のことです。
北海道はがんの死亡率は全国の府県別にみて、青森県に次いで2番目に高いといわれています。北海道に住むものとして忸怩たるものがあります。そこで、北海道のがんの罹患年齢、死亡年齢はどうなっているのか?
私は専門的にまったく素人に近いものとして、専門家の解析をお願い出来ればと思います。願わくば北海道の高い死亡率の汚名を晴らす機会になるような北海道の罹患年齢、死亡年齢の高齢化をいえないものかどうかを調べていただけないかが私のお願いです。
まず、がんの死亡や罹患に関するデータを、「数」で見るのか「率」で見るのかについては、絶対的な答えは無く、目的に応じて臨機応変に対応すべきと考えます。例えば、長期の経年変動を記述する場合、年齢に依らないがんリスクに興味がある場合には年齢分布に関する調整を施した「年齢調整率」を用いるべきですし、シンプルにボリュームを知りたい時は「数」の変動にも意味があります。収集時のデータは「数」であり、これを加工したものが「率」となりますが、それ以外にも目的や場面に応じて様々な統計的に加工された数値が用いられます。元データを加工するほど玄人(専門家)好みかつ誤解のない正確な情報が得られる反面、その解釈には専門的な知識が必要となります。理解しやすさと、学術的正確さは、トレードオフな要素がありますので、使用目的と対象者(読者層)を鑑みて適切な指標を選択するのが良いと思います。
次に年齢について記述します。がん罹患や死亡を減らすことががん対策の基本ですが、高齢化社会に伴って一定数のがんは避けられない以上、「いかにその年齢を遅らせるか」が次善の策でしょう。特に死亡年齢に関しては、それを遅らせる事に対するデメリットはほぼ見当たりません(健康年齢云々の議論は横に置いておきます)。一方で罹患年齢に関しては、大きく2つの要素が存在します。1つ目は、生活習慣等を改善することにより、がんへの罹患しにくさを目指すという点で、この観点では罹患年齢は遅らせた方が良いとなります。一方で、がんは早期発見による予後の改善が期待できますので、一旦発生したがんは極力早期に発見することが望ましく、この場合の罹患年齢は早まる方が良いとなります。がん罹患年齢を考える際には、この相反する2つの要因を分離することが困難であることを念頭に置く必要があり、一概に遅ければ良いという訳ではありません。
以上の内容を踏まえ、罹患/死亡年齢について、2020年データに基づいて北海道と全国を比較してみました。北海道における平均的ながん罹患年齢に関しては、全国に比して男性で0.35歳、女性で0.83歳高く、がん死亡年齢に関しては男性で0.38歳、女性で0.30歳高いという結果が得られました。罹患・死亡共に全国平均より高齢であり、特に死亡に関しては前述の通り評価できるでしょう。
次に、年齢分布に関する調整を施した指標として、累積リスクについても同様の比較を行いました(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」データを用いました)。これは生命表*1を用いて算出される数値です。累積罹患リスクとは、ある年齢までに罹患する確率であり、その中でも特に一生のうちに罹患する確率を「生涯罹患リスク」と呼びます。仮に生涯罹患リスクが50%であれば「2人に1人ががんに罹患する」と解釈できます。右上の図は、死亡と罹患に関して、北海道と全国の累積リスクを比較したものです。北海道における生涯リスクは、全国に比して男性の罹患で1.91%、女性の罹患で2.81%高く、男性のがん死亡で2.60%、女性のがん死亡で2.84%高いという結果が得られました。この結果は北海道におけるがんリスクの高さを表しており、更なる改善が必要と考えられます。
今後は、この文書で言及した罹患・死亡年齢と累積リスクに限らず、多角的な指標を用いて、北海道におけるがんリスクの特徴や強度を特定し、効果的ながん対策プログラムの策定および実施といったアプローチが望まれるところです。
札幌医科大学 准教授
加茂 憲一
The Way Forward No.26, 2024