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がんQ&A

がんを正しく知る

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原発不明がんとは?

 転移したがんとわかるのに、もともとどこにできたがんなのかわからない原発不明がんという不思議ながんがあると聞きました。どうして原発巣がわからないで転移巣だけが表立ってくるのでしょうか?   

 体の中に「もともとのがん」である「原発巣(げんぱつそう)」が存在しているはずなのに、十分な検査をしても「転移したがん」である「転移巣(てんいそう)」しか見つからない「がん」のことを、「原発不明がん」と呼びます。通常では、さきに「転移したがん」である「転移巣」が見つかっても、身体所見や血液検査、胸部X線検査、全身のCT検査に加え、必要に応じて、FDG-PET検査や胃カメラ、大腸カメラなどの内視鏡検査などを行います。さらに、腫瘍の一部を採取(生検)して、顕微鏡下で形態や性質を調べる病理組織検査を行います。「もともとのがん」である「原発巣」が特定できる場合もありますが、最新の検査を駆使しても「原発巣」が特定できない「原発不明がん」は全がん患者の約1~5%と報告されています。
 なぜ「原発不明がん」になるのかの理由はいくつか考えられています。①原発巣が非常に小さいうちに転移した、②原発が見つかりにくい場所にある(小腸がんなど)、③原発巣が退縮あるいは消失し転移巣だけが残った(メラノーマ、精巣原発胚細胞腫瘍など)、④がんの発生部位が本来はないはずの臓器に存在する、⑤多数のがんがありどれが原発巣かわからない、などです。女性では乳腺や生殖器由来の可能性、男性では前立腺がん、若手では胚細胞腫瘍の可能性を念頭におき検査を進めます。
 「原発不明がん」は一般的に予後不良で生存中央値は6~9か月とされていますが、治癒しうる患者や予後良好な患者が15~20%存在します。速やかに適切な治療を行うために原発巣の検索期間は1か月以内が目処とされ、それ以上の過剰な検査は患者さんの不満につながり、治療開始の遅延をきたします。検査によりあるがんからの転移を強く疑われた場合には、そのがんに基づく治療を行われますが、そうでない場合では、特定の標準治療は存在せず「経験的化学療法」と呼ばれる抗がん剤治療又は緩和医療が行われることになり、予後不良です。しかし、最近では、がんの遺伝子を網羅的に調べる「がん遺伝子パネル検査」が保険適応となり、原発巣がわからなくても、遺伝子異常に基づく分子標的治療が行われる機会や治験にエントリーできる機会が増えてきました。また、昨年にはニボルマブという免疫チックポイント阻害薬が原発不明がんに効果があることが示され、保険適応となり治療法も広がってきています。

 

 

旭川医科大学病院病理部教授 谷野 美智枝
The Way Forward No.24, 2023

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