
妊孕性の温存とはどういうことでしょうか。またどのようなときに検討し、どのような方法があるのでしょうか?
妊孕性の温存とは、将来子どもを授かる選択肢を残すために、生殖機能を保存・保護する医療的手段を指します。特に、がん治療(化学療法・放射線治療・手術)や、自己免疫疾患の治療などで生殖機能が損なわれるリスクがある場合、妊孕性温存を検討することが重要です。
妊孕性温存を検討する対象とそのタイミング
・がん患者等:抗がん剤(アルキル化剤や白金製剤等)や放射線治療の開始前。
・生殖機能に影響を与える手術前:例:精巣摘出手術。
・早発卵巣不全(POI)のリスクがある場合:治療後の経過観察中で、原疾患の経過が順調で、かつ妊孕性低下が進んでいる場合。
妊孕性温存の方法
妊孕性を温存する方法には、患者の性別や年齢、病状によってさまざまな選択肢があります(図)。なお、2021年4月以降、国と自治体は妊孕性温存療法に対する経済的公的支援を開始しました(小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業)。

女性の場合
・卵子凍結:採卵し、未受精卵子のまま凍結保存。
・受精卵(胚)凍結:パートナーの精子と体外で受精させ、胚を凍結保存。
・卵巣組織凍結:腹腔鏡手術で卵巣の一部を採取し凍結、将来的に体内に卵巣組織を移植する。適応は、小児・思春期患者が多い。
男性の場合
・精子凍結:精子を採取し凍結保存。
・精巣内精子回収術(TESE)による精子凍結:精子を採取し凍結保存。
・精巣組織凍結:臨床での成功例無し。
妊孕性温存の意義
がん治療は命を救うために不可欠ですが、その後の人生の質(QOL)を考えたとき、将来子どもを授かる可能性を残すことは、多くの患者にとって希望となります。妊孕性温存は、医療の進歩とともに選択肢が広がっています。一方、がん医療の進歩に伴って、新規抗がん剤の性腺毒性(卵巣や精巣へのダメージ)が不明な薬剤が増えてきています。大切なのは、治療開始前に適切な情報を得て、自分にとって最良の選択をすることです。原疾患の治療を最優先としつつ、医療従事者や専門機関と相談しながら、未来の可能性を残す選択肢を考えていきましょう。
聖マリアンナ医科大学産婦人科学
主任教授 鈴木 直
The Way Forward No.27, 2025