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がんQ&A

がん治療について

がん治療について

小児がんの晩期後遺症

 小児がんの原因の定かではありませんが、大変よく治るようになってきたようです。白血病は8割以上、固形腫瘍も6割以上は治癒するようになってきたと思います。ただし治療に使われる大量の抗がん剤や放射線照射によって子どもの生育後に晩期合併症が起きてくることが問題になっているようです。さらには認知機能の低下や妊娠の可能性の低下もいわれているようです。

 以上のようなことを改善するために、どのような対策を講ずればよろしいのでしょうか?  

 小児がんの患者さんの生命予後はとても良くなってきました。その一方で、病気そのもの、あるいは病気に対する治療によって晩期合併症が起こることがあります。

 それらは、1)成長・発達の異常(内分泌異常を含む):身長発育障害、無月経、不妊、肥満、やせ、糖尿病、妊孕性の低下、2)中枢神経系の異常:白質脳症、てんかん、学習障害、認知能の低下、3)その他の臓器異常:心機能異常、呼吸機能異常、肝機能障害、肝炎、免疫機能低下、4)続発腫瘍(二次がん):白血病、脳腫瘍、甲状腺がん、その他のがん、の4つに分かれます。

 これを聞くと落ち込んでしまいますが、実は一人の患者さんにたくさんの合併症が起こるわけではありません。また、新しい治療ほど晩期合併症が起こりにくくなるような工夫がなされており、予防や対策が可能なものも増えてきました。さらに、ここ20年ほどの晩期合併症の研究の進展により、晩期合併症の出現を予測できるようになりました。

 現在、小児がん診療施設では小児がん患者の長期フォローアップ体制が整ってきました。内分泌系の問題の占める比率が高いので、欧米の病院では、治療終了後数年経つと、主治医を小児血液腫瘍専門医から小児内分泌専門医に移すようになっています。北海道大学でも、小児内分泌の専門医が積極的に参加しています。認知能の問題は児童精神専門医が担当します。

 二次がんは、臨床遺伝の専門家の協力を仰いでいます。妊孕性の低下があらかじめ予想される場合には、治療の前に男子は精子保存、女子は卵巣保存が行われます。ところで長期フォローアップは医師のみでなく、ナースや心理士、ソーシャルワーカーなどのコメディカルの関与も重要です。このようなことが可能になってこそ、本来の意味で豊で贅沢な医療が行われるということになるので、私たちは行政も含めて国内の関係者を集めて啓発活動に努めています。現に最近20年間をみると、いずれの疾患においても晩期合併症が起こりにくい治療の開発が進み、一方、詳細なフォローアップによる早期の介入により、晩期合併症がコントロールできるようになってきました。

 さらに大事なことは患者本人と家族が晩期合併症を理解して取り組むことであり、そのための教材も開発されています。このようなことにより、小児がんを克服した人々のヘルスリテラシーが向上し、進んで社会に貢献できるようになってきています。皆様、応援をよろしくお願いします。

 

北海道大学大学院医学研究院小児学教室教授

真部 淳

出典 The Way Forward No.20, 2021年

 

 

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