放射線というと一般市民には外部照射を想像してしまい内部照射まで目が行き届きません。先生のお立場では内部照射が外部照射以上に大事であることを常日頃強調されていたように思います。なぜ内部照射が大事なのか、とくにどういうものがこれからの問題になるのでしょうか?
がんの3大治療法の一つに放射線治療があります。1895年にレントゲンが得体の知れない光線を発見し、それをX線と名付けましたが、翌年には皮膚がんの治療に使われていています。しかし放射線の影響は被曝した細胞や部位にしか影響がないため、当時のX線のエネルギーでは体内深部の臓器にまで効率よく届きませんでした。放射線のエネルギーによる深部率曲線を見ると、深部X線では皮膚面は100%当たっても、10cm深部では約30%しか届かないので、対向二門照射などの多方向からの照射法の工夫をしても効率は良くありませんでした。そんな時代に電話を発明したベル氏はラジウム(Ra-226)など放射性物質を病巣に直接刺入する方法を提唱していました。こうした延長上で、小線源治療法が確立されました。
この経過から、放射線治療の歴史は、がん病巣にだけ放射線を当て、病巣周囲の正常組織にはできるだけ照射しない照射技術の工夫の歴史でした。幸い物理工学とコンピュータ-技術の進歩が合体して、最近の外部照射技術の進歩は著しいものがありますが、それは小線源治療に近づける工夫でもありました。小線源治療が効果的なのは標的により多くの線量が投与されているからです。線源からの線量は線源が5mm以上離れなければ、正確に測定できないので、小線源治療では線源中心から5mm離れた位置での線量で計算し投与線量を決めています。
治療計画装置でモンテカルロ法によるCS-137線源の深部率曲線を見ると、γ線でもβ線でも線源と接している部位は超膨大に被曝しています。ちなみに、照射されている標的体積を1mm3のボクセルの集合体と考え、各ボクセルの線量を計算し積算し、平均化すれば、5mmの距離で計算して治療した投与線量と比較すれば、標的の全ボクセルを平均化した線量は約1.5倍の線量となる。これが治療効果が高い理由なのです。
長く放射線治療に携わってきましたが、医学や科学の内容も医療現場も経済原則で動いていることを実感します。私がライフワークとしてきた低線量率小線源治療は最も障害を作らず、治癒を望める治療法でありましたが、設備投資が必要なことや、診療報酬が低いことから、絶滅治療となりつつあり、残念なことです。
北海道がんセンター名誉院長 西尾 正道
The Way Forward No.24, 2023