SCSF 公益財団法人札幌がんセミナー

PAGE TOP

がんQ&A

がんを正しく知る

がんを正しく知る

慢性炎症とがん

 以前の「The Way Forward No.14」で感染症ががんの原因となるというお話がありました。その理由として感染によって引き起こされる慢性の炎症が関わっているとのことでした。確かに、慢性の炎症に移行するB型、C型肝炎は肝がんの素地となっているようですが、急性肝炎を引き起こしますが慢性肝炎には移行しないA型肝炎が肝がんを発症するとは聞いたことがありません。なぜ急性ではなく慢性の炎症ががんの誘因となるのでしょうか?また、感染性のがん以外で慢性炎症が発がんに関わっているものは知られているのでしょうか?

    がんの原因となる感染症は、B型・C型肝炎ウイルスなどのウイルス感染のほかに、ヘリコバクター・ピロリ菌などの細菌感染や肝吸虫などの寄生虫感染が知られています。病原体の種類は違いますが,がん化させる共通点は慢性の炎症を生じることです。慢性炎症は人だけでなくネズミなどにもがんを起こしますが,急性炎症で生じるがんはほとんどありません。
 慢性炎症によるがんの誘因には2つの仕組みがあるようです。第一に、感染臓器に炎症細胞が進入し続けます。この炎症細胞は病原体を攻撃して取り除きますが、周辺の正常細胞にも攻撃を仕掛けてしまいます。主な攻撃手段は、活性酸素などを放出して病原体の遺伝子やタンパク質などに致命的な傷害を負わせます。正常細胞も傷害されますが、その多くは死滅してしまいます。しかし、傷ついた遺伝子を持ちながら生き長らえた細胞の中には突然変異を獲得した異常な細胞が現れることがあります。こういった細胞の多くは正常な状態に修復されますが、慢性炎症では炎症反応が長期間持続し、炎症細胞による傷害が果てしなく繰り返されるため、修復されずに突然変異が導入された異常細胞が現れます第二に、傷害され死滅した細胞を補うために細胞増殖を促すサイトカインや成長因子が炎症細胞などから出されます。この増殖因子は異常細胞にも繰り返し作用して増殖を促し、さらに新たな突然変異を誘発します。このように増殖する異常細胞の中からがん細胞が生まれると考えられています。急性炎症では炎症細胞の進入が長く続かず,繰り返される傷害や細胞増殖が起こり難いためにがん化の可能性が少ないと考えられます。
 感染性の病原体以外で発がんに結び付く慢性炎症として、脂肪が肝臓に溜まるだけで慢性炎症を生じ、肝がんに至る場合があります。このほかにも脂肪蓄積や肥満と関連するがん(髄膜腫、頭頸部がん、食道腺がん、甲状腺がん、胆嚢がん、胃がん、膵がん、腎がん、大腸がん、前立腺がん、閉経後乳がん、卵巣がん、子宮体がん、多発性骨髄腫)の報告もあります。慢性炎症によるがんの新たな誘因として、過剰な内臓脂肪の蓄積も候補となってくるでしょう。

 

 

鳥取大学医学部実験病理学分野教授
 岡田 太
出典 The Way Forward No.21, 2022

一覧へ戻る