最近アメリカの友人からアメリカではCar-T細胞療法が大流行とお聞きしました。オボジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤の次に期待される免疫療法ということのようですが、そのような期待は正しいでしょうか。聞くところによると一人当たりの治療費が5千万円とか。とても現実的なものとはなり得ないとの声もお聞きします。まずCar-T細胞療法とはどういうことですか? その将来の見通しはどのように受けとめたらよろしいでしょうか?
CAR-T細胞療法とは、キメラ抗原受容体(CAR, Chimeric Antigen Receptor)T細胞療法のことです。
すでに、ノバルティスファーマが作製した抗CD19キメラ抗原受容体T細胞療法「キムリア点滴静注」が日本でも正式承認されました(2019/2/20、厚労省)。
その患者自身のT細胞が、がん細胞のHLA抗原に提示されるペプチドを認識するのではなく、がん細胞上の表面抗原(例えばB細胞腫瘍のCD19抗原)を認識する点が以前から注目されていました。表面抗原に対する抗体から(vH+vL)遺伝子(一例)(図の下側の模式図に示すLigand binding domain)を作製して、これをT細胞受容体遺伝子と結合させ、患者T細胞にレトロウイルスベクター等により導入して作製されます。
この受容体は、異なる起源からなるいくつかの遺伝子から構成されているため、キメラと呼ばれます。
この「キムリア点滴静注」は、米国では45万5000ドル(約5000万円)となっていますが、我が国での価格は3月18日現在、まだ決定されていません。
現在は、主として血液腫瘍(若年者の急性リンパ性白血病など)がターゲットとなっており、高い奏効率(~70%)が挙げられていますが、当然固形がんに関しても注目されます。
我々もAMEDの研究費をいただいて、難治性の疾患を標的としたCAR-T細胞療法を準備中です。今後、多くの固形がんに対して細胞表面抗原に対する特異性の高い抗体を作製して、自己のT細胞を使用する方法は臨床に使用されるものと期待されます(図1)。
図1
右に示すT細胞受容体が、MHC(HLA)に提示された抗原ペプチドを認識するのとは異なり、右にある模式図では、細胞表面抗原を標的にしてT細胞を活性化、これによる抗がん細胞効果を狙います(Nature Rev Cancer, 23;16(9):566-81からの引用)。
文献
1.今井浩三:細胞障害性T細胞によるがんの革新的治療.日本医事新報、No. 4889, 49-50, 2018.
東京大学医科学研究所 今井浩三