昔から、新しい治療への保険適用の基準の設定は難しい。10年程前から先進国で陽子線治療が様々ながんの標準治療として認められ保険適用になっていますが、Ⅹ線治療と異なり陽子線治療装置自体が高額で、どの国も施設数が少なく、治療供給体制に限度があります。日本でも、肺・肝・膵がんなど種々のがんに保険適用が広がってきましたが、最近は建屋や土地が高額となり、さらなる普及に足止めがかかっています。そんな中、国民の科学リテラシーが高いオランダでは、患者毎に数式やAIに基づく計算で陽子線治療の有意性を判断し、ある一定以上の確率でX線治療よりも安全性・効果が優れている場合のみ公的保険で陽子線治療が受けられる「予測モデルに基づいた患者選別法」が導入されています。ただ、その「予測モデル」はいくつか仮説を含んでおり、放射線治療医の判断を上回ったというエビデンスもなく、議論は続いています。自分の経験では、陽子線治療のほうが優れていると予測される場合が間違いなく存在しますが、それほど変わらない場合もあります。陽子線治療の優位性を判断するために、くじびきによる無作為比較試験を増やす案もありますが、薬物ほど単純ではありません。そんなわけで、陽子線治療がその患者さんに相応しい治療かどうかの判断は、病歴と画像等をもとに主治医から陽子線治療もX線治療も扱う放射線治療医にキャンサーボードで相談してもらうのが、現在のところ、まだ、最も理にかなっているようです。
北海道大学医学研究院教授
(公財)札幌がんセミナー副理事長
白土 博樹
The Way Forward No.26, 2024