がんと診断された患者さんのなかには既にがんが進んでいる方もあり、早期のがんを診断することは大変重要で、特に治癒率の少ないすい臓がんについては多くの研究がなされてきました。米国国立がん研究所ではすでに40年ほど前から早期がんを診断するマーカーの研究に多くの予算を出しています。がんを診断する方法の一つとして血液中のバイオマーカーが知られています。代表的な消化器がんや肺がんのCA-19-9やCEA、卵巣がんや子宮がんのCA-125、肝がんのAFP、前立腺がんのPSAなど数多く知られており、人間ドッグなどで検査をされた方も多いかと思います。これらのマーカーは実際、がんの薬物治療、内視鏡手術、外科手術、放射線治療などの効果の判定やがんの再発など、治療経過を追う点では大変有効なのですが、早期のがんやがんになりやすい前がん病変の診断には必ずしも有効とはいえないのが現状です。人間ドッグでの健康診断で腫瘍マーカーの検査は厚労省の基準には入っていませんので、特別料金は払えば検査は可能ですが、その数値だけでがんの診断は困難なため結局は内視鏡、CT検査、病理検査などの精密検査を受けることになり患者さんの負担も大きいといえます。最近わが国でも日本医科大学大本田一文先生が開発されたマーカーであるapoA2-1はすい臓がんの早期診断に有効という報告がなされています。この研究にも米国国立がん研究所の協力があったと伺いました。また尿中のマイクロRNAをみる優れた診断マーカーが出てきているのは事実ですがまだ十分とはいえません。これまでの自らの研究を振り返り忸怩たるものがございます。
次代を担うがんの基礎研究に従事されている若い研究者の方々へのお願いとして、臨床医の方々や企業の協力を得ながら早期がんや前がん病変に特異的なバイオマーカーの発見と実用化に努力をしていただきたいと痛感しているこの頃です。
大阪国際がんセンター研究所長
大阪大学名誉教授
理研名誉研究員
(公財)札幌がんセミナー評議員会副議長
谷口 直之
The Way Forward No.26, 2024