むかし結核を患った方は、その後肺がんができやすいといわれておりました。それは国内外ともに正しい事実だったでしょうか? もしそうとすれば、なぜそういうことが起きるのか現時点での見解はどのようになっているのでしょうか?
我が国では肺がん死亡急増約20年後の1980年代、愛知県の結核登録患者について調査すると、病理解剖所見を可能な限り取り入れたこともあり、男女とも活動性患者で肺がん死のリスクは7~8倍高いことが分かった。活動性患者のみリスクが高いので、結核菌の代謝産物cord-factor(毒性が強い)の発がんへの関与を疑い、専門家に動物実験を依頼した。結果はcord factorの成分(ミコール酸)が強力ながんプロモーターであった。発がん機序の一環が分かった。これらの結果は2003年、日本細菌学会の招待講演、感染発がん説を支持する物として受け入れられた。
一方、1990年代からアジア各国から女性の肺結核患者に肺がんのリスクが高いことが報告され。その原因追及が行われた。が明確にはゆかなかった。遺伝子研究が進展するにつれて両者の関連が強く疑われ、日本を含むアジア8か国での共同研究、geno-wide association, mendelian randomizationにより、女性の肺結核患者でTP53関連の遺伝子異常を示す率が高く、遺伝子異常が肺腺がんの高いリスクと関連することが2022年に発表された。結核と肺がんの因果関係の大きな追証である。肺結核患者でも治癒または不活動性患者は肺がんのリスクはない。つまり病を不活動化させれば肺がんは予防できるわけである。
なお、結核以外でも、慢性炎症性疾患と発がんのリスクが高いことは報告され、慢性炎症対策の重要性が示されている。
名古屋大学名誉教授 青木 國雄
The Way Forward No.24, 2023