ピロリ菌に感染しても胃がんを発症する人としない人がいます。それはなぜか、その原因に遺伝子の関与があるのでないかとも聞いたことがあります。具体的にどのようなことなのでしょうか?
胃がんの原因はピロリ菌感染以外にも高濃度の塩分摂取、遺伝子変異などが知られていますが、発癌にはピロリ菌感染が最も重要であり、ピロリ除菌によって胃がんリスクが軽減することも明らかになっています。しかし、ピロリ菌感染者の胃がん発症率は、男性で17%、女性で8%とされており、感染者全員が胃がんを発症するわけではありません。最近の5万人を超える日本人のゲノム情報やピロリ菌感染情報による研究で、遺伝子変異とピロリ菌感染と胃がんリスクの関連が報告されました。疾患の発症に関わる遺伝子変異を病的バリアントと呼びますが、DNAを修復する機能に関わる遺伝子群の病的バリアント保持者にピロリ菌感染が加わると、ピロリ陰性の非保持者と比較して胃がんにかかるリスクが22.45倍になりました。同じピロリ菌感染者でも病的バリアントがなければ胃がんリスクは5.78倍に留まりました。また、病的バリアントがあってもピロリ菌感染がなければ、胃がんリスクは1.68倍でした。すなわちピロリ感染の有無で胃がんリスクは大きく影響を受けることが再認識されましたが、それだけではなく同じピロリ感染者の中では、病的バリアント保持者で胃がんができやすいことが示されました。逆に病的バリアント保持者に対するピロリ除菌は、胃がんの予防効果を高める可能性があります。
北海道(公財)北海道対がん協会会長
加藤 元嗣
The Way Forward No.25, 2024