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がん治療について

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胃のスキルスがんは悪性度が高い? なぜですか

 胃のスキルスがんが悪性度が高いと聞きましたが、このがんについて少し詳しくお教えください。以前に、診断には内視鏡検査のみならず、X線バリウム検査も必要なことも聞いたことがありますが、現在ではどうなっていますか?   

 スキルスは進行胃がんの1つであり、がん細胞が胃壁の中を這うように広がり、胃壁が硬く厚くなった状態の事を指します。「胃癌取扱規約の肉眼的分類」の4型に相当し一般的な胃がんでは腫瘤の形成(1型)や、潰瘍の形成(2型、3型)が見られるため見つけやすい一方、4型は目立った腫瘤や潰瘍が無く、胃壁の中を這うように進行していくため、早期に見つけることが困難で、診断されたときにはかなり進行した状態であることがほとんどです。
 スキルス胃がんの発生頻度は、胃がん全体の中で、数%と報告されており、胃がんの中では比較的少ないといえますが、他の胃がんと異なり、女性にやや多く、また、発症年齢が比較的若年であることも特徴です。このことは、がん検診を受ける年齢になる前にがんが発症し、そのため、発見が遅れることにもつながっています。
 病理組織学的には、がん細胞が粘膜下層を筋層にむけて浸潤し、多量の線維性結合組織を伴って胃壁にびまん性に浸潤することで胃壁が肥厚し硬化してきます。胃の外側に向けて浸潤しやすいため、最終的に胃の壁から腫瘍が露出して、一部が崩れて腫瘍細胞が腹腔内に撒かれた状態が腹膜播種です。
 胃がんの診断には内視鏡検査と胃バリウム検査がありますが、今は胃がん検診でも内視鏡検査が主流となっており、特に早期胃がんの発見には、胃バリウム検査は無力と思われます。特に最近の内視鏡では拡大観察が可能となっており、微小血管や表面の微細構造を観察することでがんの診断が可能です。スキルス胃がんの場合は、送気の際の膨らみ不良や、粘膜ひだの肥大が診断のきっかけとなり、確定診断は生検での病理診断によりますが、スキルス胃がんではがん細胞が胃粘膜表面ではなく胃壁の深い部分を這うように進展していくため確定診断が得られないこともあります。スキルス胃がんを疑う肉眼所見があった場合は組織検査を繰り返すことや、CT・超音波検査などの他の画像診断を組み合わせて、がんを見逃さないようにすることが大切です。
 胃バリウム検査の方がスキルス胃がんを見つけやすいという話も聞きますが、確かに、胃の膨らみの悪さはバリウム検査で分かりやすいのですが、その場合は、内視鏡検査でも胃の内腔が狭い、空気を入れてもふくらみが悪いということで気がつきます。経験の浅い内視鏡医なら異常なしと診断する可能性も否定できないほど見た目の所見が軽微なこともあり、この場合はバリウム検査の方がわかりやすいと言えるかもしれませんが、バリウムで診断がつく場合はがんがかなり進行している事を意味します。経験豊富な内視鏡医であれば、バリウム検査より、内視鏡検査の方が早い段階で発見できると思われます。
 治療は通常の胃がんと同様に、スキルス胃がんの場合も手術で病変部を取り除くことが最善ですが、スキルス胃がんの場合は発見時にはすでにかなり進行していることが多く、腹膜播種が生じると手術で除去することは困難で、抗がん剤などの化学療法が主となりますが、未だに有効な治療法が存在しないことも事実です。今後は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤、遺伝子治療などがスキルス胃がんに対して期待されます。
 スキルス胃がんの生命予後は報告によっても異なりますが、5年生存率が0~9.5%と極めて不良です。いかに早い段階で見つけることができるかが今後の課題です。

 

 

医療法人豊和会 新札幌豊和会病院
消化器内科部長
桑原 慎一

The Way Forward No.26, 2024

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