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膵がんの原因も感染症か?

 膵臓がんは症例数はまだ比較的少ないとしても明らかな増加傾向にあります。しかも予後の良くないがんの代表として皆さん、その原因について気にしているところです。  海外からは腸内細菌のある種のものが膵臓がんの原因に働いているのではないかとのコメントもありました。胃がんの原因として思いがけなくピロリ菌が登場したように、膵臓がんの原因としての感染症の可能性もあるのではないかと考えても決して不自然ではないようにも思います。その可能性はどのくらいと推定したらよろしいか、ご存じの範囲内でご教示いただければ有難いと存じます。

 膵臓がんのリスク要因として確立しているのは、たばこ喫煙と肥満です。日本の約10コホート研究35万人のプール解析においても、喫煙は男女何れにおいても1)、また、BMI30を超える肥満は男性において2)、統計学的有意なリスクになることが示されています。また、アルコール過剰摂取、高身長(成長期の栄養状態の指標)、糖尿病なども、おそらく確実なリスク要因とされています。即ち、喫煙、飲酒、肥満など生活習慣要因との関連に留まっています。
 私たちは、既知の細菌・ウィルスであるピロリ菌感染3)やB型・C型肝炎ウィルス感染4)が膵臓がんにおいても関わっていないかと考え、コホート研究において検証しましたが、いずれも関連はありませんでした。今後、ピロリ菌の発見以前は想像もしていなかった胃がんのように、膵臓がんにおいても、感染が寄与していることが将来的に示されるかもしれませんが、現時点では、私の知る限りにおいては、科学的証拠は殆どないものと思われます。

 

参考文献:
1) Koyanagi YN, et al. Smoking and Pancreatic Cancer Incidence: A Pooled Analysis of 10 Population-Based Cohort Studies in Japan. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2019 ;28:1370-1378.
2) Koyanagi YN, et al. Body-Mass Index and Pancreatic Cancer Incidence: A Pooled Analysis of Nine Population-Based Cohort Studies With More Than 340,000 Japanese Subjects. J Epidemiol 2018;28:245-252.
3) Hirabayashi M, et al. Helicobacter pylori infection, atrophic gastritis, and risk of pancreatic cancer: A population-based cohort study in a large Japanese population: the JPHC Study. Sci Rep 2019;9(1):6099.
4) Abe SK, et al. Hepatitis B and C Virus Infection and Risk of Pancreatic Cancer: A Population-Based Cohort Study (JPHC Study Cohort II). Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2016;25:555-7.  

 

 

国立がん研究センター社会と健康研究センター長
 津金 昌一郎

出典 The Way Forward No.19, 2021年

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