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がんを正しく知る

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膵がん手術前の化学療法がよいというのは本当ですか?

がんの外科手術をする前とか後に化学療法をやった方がよさそうだという意見は早くからありました。ものによっては手術前がいいとか、後がいいとかそれぞれのがんについていろいろなことがいわれておりましたが確かな結論はなかったようです。
膵臓がんはがんの中のがんともいわれ、もっとも予後の厳しいものですが東北大の海野倫明先生はこの膵臓がんに対して手術前の化学療法がいいといわれておられます。この結論は統計的に客観的ないわゆるランダマイズドコントロールというもので得られたものですので間違いのないものと高く評価されていると存じます。
このような術前療法がいいという考えは、膵臓がんだけの場合なのでしょうか、しかも使われた化学療法の内容によるものなのでしょうか? 同じようなことが他の臓器がんでもいえる普遍的なものなのでしょうか?

 

膵臓がんは、すべてのがんの中でも最も治療成績が悪いがんで、最凶のがんともよばれています。早期発見が難しいため、手術ができる膵がんは約2割程度です。このような膵がんに対して、外科手術が行われますが、再発が多いため、術後に経口抗がん剤を半年間内服することが推奨されていました。しかし、術後は手術の影響などにより抗がん剤の投与は十分ではないことが多いため、術前治療というものが注目されていましたが、これまでそのエビデンスが明らかではありませんでした。
そこで、日本全国58施設、364名の患者さんのご協力の元、半数は術前治療を行い、残りの半分は、すぐに手術する、というようなランダマイズドコントロール試験を2013年1月に開始しました。その成績が2019年1月に発表され、術前治療群の全生存期間中央値は約37ヶ月、手術先行群は27ヶ月、と有意差を持って術前治療のほうが良い成績でした。この結果を受けて、今後は切除ができる膵がんであっても、直ぐに手術はせずに、まず抗がん剤治療を行ってから手術を受ける、というのが標準治療になると考えています。
このように術前治療が一般的になっているのは、食道がん、乳がんなどです。食道がんの場合は、膵臓と同様に手術の影響が大きいため、術後より術前の抗がん剤治療のほうが優れていることが明らかになっています。乳がんの場合は、術前治療を行うことで乳房温存手術の割合が高くなる、という利点があり、ある種の乳がんでは一般的になっています。その他のがんでも、手術前に化学療法を行う利点として、縮小手術が可能となる、ダウンステージングが得られ生存率が向上する、患者さんの状態が良いので薬剤投与が十分にできる、薬剤の効果判定が術前にできるので、術後補助療法や再発時の薬剤選択に役に立つ、などの利点があることから、今後もより多くのがんで行われるようになっていくと考えています。

東北大学大学院医学系研究科外科病態学消化器外科学分野教授 海野倫明

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