高齢者のがん治療は若い人のがん治療とは同じではなく、当然違って然るべきと思います。ただ、いろいろな違いの中でも、気をつけなければならない最も基本的な違いはどんなことでしょうか? 高齢者といっても一人ひとりまた違った個性があると致しますと、それぞれの個性に合わせた治療や副作用対策が必要になってくると思われます。どんな配慮が求められるのでしょうか?
「これまで大事にしてきたものは何か」「いま何をして、これからどう生きたいか」。自分のがん治療を考えるとき、ご高齢の患者さんほどこういう気持ちが強くなると思います。「がんを治したい」「すこしでも長生きしたい」ということも重要ですが、いままでの人生のなかで作り上げてきた個性や価値観は、若い患者さんと比べたときの生理機能や検査データの違いや治療効果や副作用の違いよりも、ご高齢の患者さんにとってはずっと大切なことです。私たち医療者に求められることは、一人ひとりの患者さんの気持ちや思いによくよく耳を傾けることです。「病気でなく人を診る」ということです。
名古屋大学医学部附属病院 化学療法部 安藤 雄一
出典 The Way Forward No.17, 2020年