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がん治療について

がん治療について

DNAR(Do not attempt resuscitation)とは?

 最近、「DNAR」という言葉を耳にします。耳慣れない言葉ですが、このことが安楽死との関係で、例えばがんの末期になった患者に心肺蘇生の適用のない患者が尊厳を保ちながら死にゆく権利を守るために、「心停止時に心肺蘇生を行わないように」とのように理解していますが、このことは「消極的な安楽死」とどのように区別して考えたらよろしいのでしょうか?  

    DNARとは、Do not attempt resuscitation指示の略で、「心停止時に心肺蘇生を行わないように」という指示のことです。医師や看護師を中心とした診療チームと、患者さんとその家族が十分に話し合い、あくまでも患者さんの希望に基づいて、心肺蘇生を行わないことを、医師が指示します。「心肺蘇生を行わない」ことを望む、と聞いて違和感を感じる方がおられるかもしれません。実はこの指示が出される背景には、悪性腫瘍の末期など、回復の見込みが全くないと医学的に判断された場合、という大前提があります。治癒不能の病気が進行し心肺停止に陥った方でも、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)など、高度に発達した現在の治療技術を駆使すると、全く自発呼吸がない、いわゆる脳死状態にある方ですら、「いつまでも」死亡宣告を遅らせることが可能です。DNAR指示を理解するためにはこの現実を認識する必要があります。つまり、DNAR指示とは、万が一自分が重い病気にかかり回復の見込みが全く無くなった状況で、いたずらに延命処置を継続することなく、尊厳を保ちながら死の瞬間を迎えたい、という患者さんの希望を表明したものであり、いわば患者としての権利というべきものなのです。ここで大変重要なことは、回復の見込みがない、という医学的判断が適切であるかどうか、ということです。そのため、DNAR指示の前提となるこの重要な医学的判断を決定する場には、複数名の医師のほか、看護師、薬剤師、そしてソーシャルワーカーなどの多職種が参加して話し合いが持たれ、慎重の上に慎重を重ねて判断されます。そして、さらに重要なことは、DNAR指示は心停止時にのみ有効であるということです。DNAR指示を、心停止時以外の場面での治療にも拡大解釈し、心肺蘇生以外の治療を差し控えることは決してあってはならないことです。一方で、回復の見込みのない病気によって、激しい苦痛に悩まされている患者に対して、苦しむのを長引かせないという目的のために、延命治療を中止し、その結果として死期が早まる場合があります。「消極的な安楽死」と呼ばれます。消極的な安楽死とDNAR指示とは、指示の目的や対象となる場面・治療内容が全く異なるものですが、回復の見込みがない、という医学的判断が大前提であることは共通しています。そして、いずれの指示も、あくまでも患者さんの想いに、医療者がしっかりと寄り添った上で決定される判断であることは言うまでもありません。

 

 

札幌医科大学医学部病院管理学

兼 循環器・腎臓・代謝内分泌内科講座

准教授
橋本 暁佳
出典 The Way Forward No.19, 2021年

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