SCSF 公益財団法人札幌がんセミナー

PAGE TOP

がんQ&A

公益財団法人札幌がんセミナーTOP / がんQ&A / HPVウイルスによる中咽頭がんの予防?

がん予防

がん予防

HPVウイルスによる中咽頭がんの予防?

   HPVウイルスは既に子宮頸がんの原因としてよく知られております。HPVウイルスが最近、とくに中咽頭がんをはじめいろんなところのがんの原因にもなっているようです。  

  1)咽頭がんは同じ扁平上皮の上咽頭、あるいは下咽頭ではなく、なぜ中咽頭だけがHPVウイルスによるがん化の対象になるのでしょうか?  

  2)HPVウイルスはどこにでもあるようなウイルスのようにお見受けします。以前にある婦人科の専門医から「HPVウイルスは洗浄などで局所を清潔にするだけでかなり除去できます」(子宮頸がんの予防になります)と聞いたことがあります。「HPVワクチン」を使うことが出来ればよいのでしょうが、子宮頸がんに対するHPVワクチン投与が仮に難しいとすれば、たとえば「うがい」だけでもHPVを除去し中咽頭がんの予防に役立てることが出来ると考えてよろしいでしょうか?

   1)ご指摘のように、HPVは子宮頸がんのみならず中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどを引き起こすとされています。咽頭は、鼻の奥から食道までの飲食物と空気が通る部位であり、上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位からなります。このうちHPVは中咽頭、その中でも口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)や舌根(舌の付け根)へのがんとの関連が強いです。HPVは基底膜と呼ばれる表面から少し深いところにある膜の細胞に感染するので、表面がうすくなっているところや表面の傷から入りこみやすいです。上咽頭や下咽頭は表面がしっかりしていて、HPVが入りこみにくいですが、口蓋扁桃や舌根は表面がくぼんでいてHPVが入りこみやすい構造になっています。このためHPVが中咽頭がんを引き起こしやすくなっています。HPVが引き起こす中咽頭がんは世界的に急激に増加しており問題となっています。その原因の一つにHPVの付着したものを口にする行為(オーラルセックス)が考えられており、オーラルセックスのパートナーが多い人ほど中咽頭がんになりやすいという報告もあります。

 2)子宮頸がんの予防にHPVワクチンが有効であることは海外では証明されていますが、中咽頭の予防に有効かはまだ証明されていません。しかし今後HPVワクチンを積極的に接種している国では中咽頭がんの患者さんは減少することが予想されています。中咽頭がんの患者さんのうがい液からHPVは検出されるため、うがいを行えば多少はHPVを除去することはできますが、完全に除去することは難しいので予防効果は限定的と思われます。

 

国家公務員共済組合連合会斗南病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科科長 水町貴諭

出典 The Way Forward No.17, 2020年

一覧へ戻る