「がん撲滅」の言葉になぜか違和感を感じます。がんの専門家のなかでも「がん撲滅」を高々に叫ばれることがあります。意気込みとしてはわかるのですが、現実離れの印象を拭えません。
がんは果たして撲滅できるのでしょうか? がんは60~70%が治るようになり、いま残り30~40%の方々のがんとの共生の時代に入ってきました。がんの発生は老化と同じように永遠のもので、決して撲滅できるものではありません。
せめてがんを「制圧」しようとか、もっと謙虚にいわせてもらえば「がんで苦しむ人を1人でも減らそう」というほうががんと戦う適切表現ではないかと思うのですが如何なものでしょうか。
たかが、言葉の問題に過ぎないのですが、「撲滅」という言葉はいささか気張りすぎというか、人間の驕(おご)りに感ずる人が少なくないように思いますので。
公益財団法人札幌がんセミナー / 北海道大学名誉教授
小林 博
出典 The Way Forward No.19, 2021年