がん細胞の突然変異を解析することによってがんの原因を推定することが可能ではないかとのお仕事をされているとお伺い致しました。突然変異を解析するとはどういうことですか?
ヒトの遺伝子(DNA)とはT、C、G、Aという4つの塩基が30億個並んでいるものであり、こうした塩基配列に異常が起こることを突然変異と呼びます。がん遺伝子やがん抑制遺伝子といった遺伝子に突然変異が起こるとその機能に異常が生じ、その結果細胞ががん化することがわかっています。4種類の塩基がそれぞれ別の塩基に置換される1塩基置換型の突然変異には全部で12種類の組み合わせが考えられますが、DNAはA:T、C:Gの相補的な2本鎖であるため(例えばC>A(CがAに変異したもの)とG>T(GがTに変異したもの)を区別できない)6種類と考えることができます。更にその変異の1つ前と後の塩基配列情報(それぞれT、C、G、Aの4通り)を加えることで、全ての突然変異を4x6x4=96通りに分類することができます。これまでの研究から、この96種類の突然変異は決してランダムに起こるのではなく、がんの種類やその原因によってその起こり方には特徴があることが解明され、そうした特徴は突然変異シグネチャー(Mutational signature)(「シグネチャー」には署名以外に「特徴」という意味もあります)と呼ばれています。「突然変異を解析する」とは、スーパーコンピューターのような大型計算機を用い、新しい情報解析技術を駆使することで、がんのゲノム情報からこうした特徴を抽出することを意味しています。
東京大学医科学研究所ゲノム医科学分野教授 柴田龍弘
(出典 The Way Forward No.16, 2019年)