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がんの未来

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がんの超早期発見はどこまで可能か?

 血液中にがん組織から放出されたがん細胞、あるいはその断片、そのDNAレベルの存在などがいろいろ話題になっております。とくにDNAレベルでの検索をリキッドバイオプシーとして超早期発見に利用しようという試みが盛んに行われています。現時点では画像診断によるがんの早期発見が行われていますが、今後はさらに超早期のがんの発見は可能なのか?その研究の現状はどうでしょうか? これを利用した大きな研究が動いていると聞きましたがその試みや将来の展望について教えてください。

 リキッドバイオプシー技術の進歩に伴い、患者さんから20ml/回の血液採取を行い、その中に含まれる1000個のDNA断片(ほとんどは正常細胞由来)の中に腫瘍由来DNA断片(変異アレル)が1個以上の割合で存在すれば検出可能となりました。この技術は、Precision Oncology(がんゲノム医療)として転移性腫瘍(主にステージ4期)のがんに臨床応用されつつあります(国内未承認)。

 現在のリキッドバイオプシー最先端技術を用いれば、20~40ml/回の血液採取を行い、その中に含まれる1万個のDNA断片の中に腫瘍由来DNA断片が1個以上の割合で存在すれば検出可能となっています。この技術はがんの早期発見に活用できるのではないかと期待されています。まずは根治切除後の患者さん(大腸がん、肺がん、乳がん等)の再発予測能の評価として始まり、特に結腸がん根治切除後1か月の時点で血液循環腫瘍DNA(ctDNA)が陽性なら90%以上再発、陰性なら10%以下の再発と報告されています。つまりctDNA陽性なら術後補助薬物療法を強める、陰性なら術後補助薬物療法を弱めるまたは省略するといった治療戦略が成り立つ可能性があります。現在その検証試験がわが国でも始まっています(Circulate-Japan、https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0610/index.html)。Precision Onco-surgeryの幕明けです。

 さらに超早期発見に向けた臨床開発として、いくつかのがん腫で早期がんばかりでなく前がん病変(例えば大腸進行腺腫)を含めて検出可能か研究が進んでいます。検出感度を向上するため腫瘍由来DNA断片の検出に加え、メチル化、蛋白発現、マイクロRNAなどの腫瘍由来の変化をも加味した診断系の確立も進んでいます。近い将来、まずは採血、その結果を用いてここを集中的に精査するという診断手順、ひいては超早期発見と検診の個別化が可能となると思います。

 

国立がん研究センター東病院消化管内科長 吉野孝之

出典 The Way Forward No.18 2020年

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