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がんを正しく知る

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がんを兵糧攻めで叩けますか?

 がんを兵糧攻めにしてがんを叩くということをよく耳にします。悪性で活動が活発ながん細胞といえども、血液からの栄養や酸素の供給がなければ増殖できないためではないかと思います。これを逆手にとってがんへの血液供給を断ってがんの発育を止めようという試みが報道されているようですが、臨床でどのようなものが使われていますか?  またこのような薬が効率よく使われる臓器はどこでしょうか?  また、胎児に奇形をつくるといわれるサリドマイドにも同じような効果があると聞いたことがありますが臨床応用はされているのでしょうか?

 最後に、こうした血管を標的とした薬剤はごく小さながんであれば抑制効果が期待されると思いますが、ある程度がんが大きくなると効かなくなるということはないのでしょうか?

 がんは増殖に必要な栄養、酸素を得るために新しく血管を作らせます。これを「血管新生」といいます。血管新生がおこらなければがんは数ミリ以上大きくなれません。また、血管はがんの転移にも必要です。そこで、今から15年程前にがんの増殖や転移を抑制する目的で血管新生阻害剤が登場しました。がん細胞は様々な因子を分泌し血管新生を誘導します。代表的なものは血管内皮成長因子(VEGF)で、現在の血管新生阻害剤の多くがこの働きを阻害するものです。例えば大腸、腎臓、肺、肝臓などは血管が多い臓器で、そこにできるがんも血管に依存しているため、血管新生阻害剤効果が現れやすいと考えられています。

 その他、薬剤の開発時に期待された効果とは別に後に血管新生阻害作用が判明したものもあります。ご質問のサリドマイドはこうした薬剤の一つで、多発性骨髄腫の治療に使われています。なお、サリドマイドが胎児奇形をもたらすことはよく知られています。これは手足の末端の血管新生が阻害されるためと考えられており、血管新生が胎児の発育にも重要であることを示しています。

 最後に、血管新生阻害が大きながんでも効果を発揮できるのかというご質問についてです。進行がんでは血管新生阻害剤は単独では用いられず、抗癌剤、免疫チェックポイント阻害剤など、がん細胞を直接攻撃する薬剤と一緒に用いられます。現況では血管新生阻害剤のみで進行がんを治療することは難しいと考えられています。一方、血管新生阻害剤は未熟で漏れやすいがん血管を正常な形に戻すため、抗癌剤や免疫細胞ががん組織中に効率良く運ばれるようになります。そのため化学療法や免疫療法の治療効果が増強されることが報告されています。

 がんの脇役である血管が治療標的となってからの歴史はまだ浅いですが、現在、新しい血管新生阻害剤の開発や診断法の樹立を目指した研究が盛んに行われています。

 

北海道大学歯学部血管生物分子病理学教室教授 樋田京子

出典 The Way Forward No.18 2020年

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