「がんのゲノム医療」は「がん治療の革命」といわれるくらい期待されています。ゲノム医療で人間の細胞の全遺伝子を解析できるようになったわけですから、それぞれのがん患者さんに至適の新しいがん治療を行なえるようになってきました。
大津先生はわが国における第一線の指揮官として、とくに最近はSCRUM-Japan(スクラムジャパン)計画で新薬を開発されようということでご苦労いただいているとお伺いしております。SCRUM-Japanとは簡潔にどういう狙いのものなのでしょうか? またこの新しい計画によっての将来、何年先にどの程度のことが実現可能とお考えでしょうか?
なお、この計画に「腸内細菌との関係」に注目されているようですが、その真意は如何ですか? ちなみに腸内細菌は理念は結構としましても、その解析は極めて難しいと思われますが、敢えて挑戦される理由をお教えいただけませんか?
①SCRUM-Japanとは、日本人がん患者さんに先端的な遺伝子解析をすることで患者さん個々に最適かつ有効な新薬をいち早く届けるための組織です。全国260病院と製薬企業17社との共同研究として、新しいお薬の治験を全国で協力して実施し、国の薬事承認を経て保険適用を取得して全国の患者さんに速やかに有効なお薬を提供できるようにしています。患者さんにとっては個人での費用負担なく最新の遺伝子検査と新しいお薬の投与を受けることができます(日本全国に広まる3-5年程度先を進んでいると思います)。
SCRUM-Japanは2015年から活動を開始し、すでに6つのお薬で保険適用を取得して全国の患者さんに届けています。また2018年からは最先端の血液での遺伝子検査(リキッドバイオプシー)を導入し、患者さんへの負担が少ない検査法も開始しており、数年後には全国でも使用できるように国の承認を受けるためのデータを作成中です。 詳細は下記のホームページをご覧ください。
http://www.scrum-japan.ncc.go.jp/
②腸内細菌叢に関しましては、世界中の様々な研究から体内の免疫機能やお薬の代謝などに大きな影響があることがわかってきています。SCRUM-Japanで新しく開始したプロジェクトでは、最近のがん治療の主役となってきている免疫チェックポイント阻害剤の効果と腸内細菌叢の相関をみる研究を展開しています。どのような腸内細菌叢がある方が免疫チェックポイント阻害剤に効きやすいかを明らかにして、その先の展開として便(腸内細菌叢)移植によってより効果を高める試みも計画しております。ご指摘のように解析は難しい点もありますが、すでに検出法は標準化し、また細菌1細胞ごとの遺伝子解析も国内で開発されており、本プロジェクトでも導入しております。
国立がん研究センター東病院院長 大津 敦
出典 The Way Forward No.17, 2020年