乳がんの5年生存率はもしステージⅠなら100%治ると考えてよいと思うのですが、実際は100%ではなく95%ぐらいのようです。なぜ残り5%の人が5年生存が出来ないのですか?
Stage Iの乳がんは、乳管内病巣の大きさは関係なく、乳管内のがんが基底膜を破り2.0cm以下の浸潤部分が間質に存在するものを言います。間質にある程度がん病巣が存在するという場合は、確率的に浸潤巣の大きなものほど血管やリンパ管を通じて、がん細胞が体中を環流している可能性が高くなります。
以前はアッセイの精度の問題で、早期がんの体液中のがん細胞を捉えることは困難でしたが、リキッドバイオプシ―というcell free DNAの解析により、全例ではないですが、早期がんでもすでに全身病と捉えるべき症例があることがわかってきています。 がんの大きさだけを考えると外科治療で完全切除が可能ですが、外科治療をおこなった時点で、もうすでに全身にがん細胞が環流している症例があります。
ただ、将来転移が生じるのは、手術の時点でがん細胞が全身に環流している症例の一部であり、多くの症例はがん細胞が環流していたとしても、何もしないでがん細胞はそのまま死滅してしまうことがあり再発がおこりません。しかし、一部の症例は手術前後の環流したがん細胞がどこかに着床し、じっとしています。それらの遠隔再発を防ぐためには、手術だけでなく薬物療法が必要です。眠っているdormantながん細胞の一部は薬物療法でコントロールできると考えられていますが、一部の症例はコントロールできずに将来転移再発します。Stage Iの多くは薬物療法が必要である根拠の一つになっています。薬物療法群と無治療群をランダム化すると薬物療法群の予後が良かったので、Stage Iでも現在の標準療法では薬物療法を行うことになっています。
以上のような理由でStage Iの5年生存率は100%というわけにはいきません。
北海道がんセンター 副院長 高橋將人
(出典 The Way Forward No.16, 2019年)