乳がんの治療は10年というより、この5年間でも大きく変化いたしました。外科治療においては、乳房全摘手術から乳房温存術へという流れだったのですが、人工乳房を用いた乳房再建術が保険適応になってから、無理に温存術を選択するのではなく、最終的な整容性を考慮し乳房全摘術と同時に乳房再建術を選択するケースが増えてきました(一次再建)。
同時に行われる腋窩(わきのした)の手術は、郭清術(リンパ節とまわりの組織を一塊にして摘出する)から、センチネル生検(がんが一番最初に転移するリンパ節だけを取り、調べて転移がなければそれで終了、転移があれば郭清術に変更する)というのが標準術式だったのですが、最近ではセンチネルリンパ節に転移が見つかっても郭清しないというケースも出てきました。
薬物療法では、エストロゲン受容体とHER2に関連する薬が複数開発され、今までの治療薬から置き換わったり、今までの治療薬と新規に開発された薬を組み合わせて使うようになりました。新規薬を使用することで、治療効果が増したり、副作用が軽くなったりしています。
また、新しい治療軸として遺伝性乳がんであれば、それに応じた治療薬が今年から使用できるようになってきました。がんの遺伝子変異を検出し、それに対応した複数の新薬がここ1、2年で使えるようになりそうです。
このように乳がんは、年々着実に治療法が変化しています。乳がん診療医はこの変化が乳がんに関連する辛い思いを少しでも軽減するのに役立っていると信じて治療を行っています。
北海道がんセンター副院長 高橋 將人