乳がんの外科手術後に体重がもとに戻り、さらにやや肥満体になってくることが多いようであります。これはがんの予後にいい兆候でしょうか、それとも悪い兆候でしょうか?
がんの治療により体重増加がみられることがあります。抗がん剤によるむくみ、ステロイドによる体重増加、薬剤による脂肪吸収促進作用による一次的体重増加、倦怠感・関節痛といった薬剤の副作用により活動量が低下することでの二次的体重増加が考えられます。女性に多い乳癌の場合、ちょうど女性ホルモンが変化する時期に罹患されたり、抗がん剤などの治療によって生理が早く止まってしまい早期閉経になったりとホルモンバランスの変化から体重が増えることも考えられます。さまざまな不安やストレスと戦いながら、乳癌の治療を無事に終え、やっと安心したと思ったら、予想外に体重が増加していることに気がつき、体形が変わってしまったことにストレスを感じる方もおられます。
では体重増加は、がんの予後にいい兆候なのでしょうか?それとも悪い兆候なのでしょうか?今までのいくつかの研究から、乳癌診断後の肥満は、乳癌の再発の可能性を高め、死亡のリスクをあげると報告されています。肥満といってもどの程度かは、実はとても難しく、body mass index(BMI)で30以上と25未満との比較検討が行われていることが多いです。この研究の結果から、乳癌の診療ガイドラインでは、乳癌診断時より肥満度が上昇した患者において乳癌再発リスクおよび乳癌死亡リスクが高いことはほぼ確実であるとされています。
さらに体重増加は、乳癌の手術の合併症で起こる場合があるリンパ浮腫の増悪によることもあります。また、ホルモン治療が原因で体重が増えたと思い、治療を中断してしまう方もいます。体重が増えてくると、動くのがおっくうになり、ますます体重が増えたり、体力筋力も落ちてきて、他の疾患を発症したりする場合もあります。様々ながん治療薬が新たに開発され、その効果が医学的に示されても、副作用によって服薬ができなかったり、体重増加や、運動不足で体力筋力が落ちたり、他の疾患を発症してしまったら、その効果は本当の意味で届かないことになってしまいます(図)。
そうはいっても、体重管理は簡単な様でいてとても難しいことでもあります。まずはできることから心がけていきましょう。体重を落とすために過度の食事制限などはお勧めできません。野菜だけをとったり、偏った食事だと、タンパク質が不足し、筋力が維持できなくなります。バランスの取れた食事を上手に心がけましょう。そして毎日少しずつの運動も重要です。がんの治療を終えた方にとって、適切な食事で肥満を避け、運動で体力筋力を保つことが、副作用予防や緩和、再発予防のためにとても大切です。心と身体を守って、前向きに人生を歩んでいただきたいと願っています。
聖路加国際病院副院長・乳腺外科部長
・ブレストセンター長
山内 英子
出典 The Way Forward No.19, 2021年