がんが見つかるとむかしは拡大手術で取れるだけ取るという傾向でしたが、最近は縮小手術、つまり出来るだけ小さく取って済むようにするように化学療法、放射線療法に期待するものが大きくなったように理解しています。
むかしは生検でがんが見つかればすぐ外科摘出をしたようですが、最近は経過観察とかPSAの動きをみて必ずしも外科に頼らずホルモン療法などが優先されると聞いております。手術をするかしないかはどのような基準で決められるのでしょうか?
生検(前立腺に細い針を刺して少量の組織を採取すること)によって前立腺がんが発見された場合、リンパ節や骨などに拡がっていないかを画像で検査します。明らかな転移がなく、がんが前立腺内に留まっていれば限局がんと診断されます。
限局がんに対しては、がんの根治を目指して、手術療法(前立腺全摘除術)あるいは放射線療法(外照射や組織内照射)が考慮されます。年齢、本人の身体の状態、発見されたがんの顔つき、本人の希望などを総合判断してどちらかの方法を選択します。いずれもがんをコントロールする有効な方法ですが、手術では術中の出血や術後の尿漏れ、放射線では膀胱炎や直腸炎などの合併症が生じます。ロボット支援手術の普及やコンピュータ制御の放射線装置に開発によって、以前よりはこれらの合併症も頻度は減少していますが、いまだゼロにはなっていません。
一方、限局がんの中でも、がんの顔つきが良い小さな腫瘍であれば、必ずしもがんが進行してがんで亡くなるわけではないことがわかってきました。このため、がんが発見された時にすぐに積極的な治療を行わずに慎重に経過を観察し、がんが進行する兆しがあればその時点で根治治療を考慮する監視療法と呼ばれる方法が開発されています。監視療法により、結果的には治療の必要がなかった患者さんに対する過剰治療を避けることができ、手術療法や放射線療法による合併症に悩むこともなくなるというわけです。ただし、監視療法の適応となる患者さんは限られており、その施行にあたっては、医療者と患者さんの間の十分な話し合いが必要であることは言うまでもありません。
札幌医科大学医学部泌尿器科学講座教授 舛森 直哉
(出典 The Way Forward No.16, 2019年)