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目に見えないがん転移にどう対処するか

がんが肉眼で見える最小限の大きさは数ミリのものとして、そこに含まれるがん細胞は恐らく数千万個から数億の程度のものといわれます。いうなればそれ以下の数百万個のがん細胞が既に転移していたとしても画像診断で見つけることは出来ません。目に見えないがん転移をどうやって見つけるか、そのためにどういったことがされているのでしょうか?

 がんに対して根治切除術が施行された場合でも、術後に再発してくる症例があります。通常がんの手術では、原発巣切除とリンパ節郭清が行われます。リンパ節転移の有無に関する組織診断は、リンパ節の最大割面を用いて行われます。通常の組織検査で転移陰性と診断されても、残りのリンパ節内にがん細胞が残存している可能性も否定できません。実際に残りのリンパ節の追加切片を作成して検討すると、約20~30%の症例で新たにリンパ節微小転移が見つかります。また、上皮マーカーを用いた免疫組織学染色やRT-PCR法によりmRNAを調べることにより、より精度が高く、簡便に検査が施行できるようになっています。
 また、がん細胞は血管内に侵入し、臓器転移を起こします。CT、MRI、PET、超音波検査など画像診断技術も進歩してきていますが、数ミリ以下の転移は検出が難しいのが現状です。これまでに臓器特異的な様々な腫瘍マーカーが開発されて、臨床応用されています。画像診断で見つかる前に腫瘍マーカーの上昇がみられる場合もあります。私たちは胃がん症例で、血液中のがん細胞の存在を調べると、切除不能例では約60%、切除例でも約11%にみられました。血中遊離がん細胞陽性例では再発率が高く予後も不良です。その他、血液中のがん細胞のmRNAやDNAを検出して転移診断に用いられています。
 今までは手術療法が主体であったため、切除後に化学療法や放射線療法を行ってきました。手術後の局所は血流が悪く抗癌剤が到達しにくいことや、術後には体力低下があり、十分な補助療法ができない場合があります。最近は特に進行癌に対して、手術前に化学療法や化学放射線療法を行い、血流が豊富な原発巣や目に見えない微小転移巣に効果を期待する治療が行われてきています。また、術後の経過観察で、画像診断で目に見える転移になる前に、血中のがん細胞やmRNA、DNAを調べ、陽性例には補助療法を行うことが有効と考えられます。以上のように、がんの治療では画像診断で転移が発見される前に、血液などを用いて目に見えない転移を予測して治療を開始することが重要です。
 

鹿児島大学消化器・乳腺甲状腺外科教授 夏越祥次

(出典 The Way Forward No.16, 2019年)

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