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がんを正しく知る

がんを正しく知る

転移するがん、しないがん

「転移のないがんは怖くない」といわれます。外科手術でがんは取って済むからです。がんの難しさはやはりがん細胞があちらこちらと飛び火してしまう、つまり「転移」というものがあるからです。がんのなかに転移するものと転移しないものがあります。なぜそのような違いが出てくるのでしょうか?

 がんは発生後、画像診断などの検査によって見つかるまで5~10年かかると言われており、これが初期のがんに相当します。多くの種類のがんは、初期の段階では転移は稀です。がんが徐々に大きくなると、増殖、浸潤、転移をする能力を持つようになります。しかし、個々のがんには性質(悪性度)があり、非常に増殖、浸潤が速く転移しやすいがんから、ゆっくりと大きくなり転移しにくいがんまで様々です。がんが発生した臓器によってリンパ節転移を起こしやすいがんや、血中に入って臓器に転移を起こしやすいがんがあります。また乳がんが骨に転移しやすいように、がん細胞によって、肝臓、肺、骨など転移しやすい臓器があります。
 転移が成立する機序にはいくつかの過程があります。1)先ずがん細胞が原発巣で増殖、 2)原発巣から離れて血管やリンパ管に侵入、3)血管やリンパ管の中を移動、4)転移をする臓器の血管に接着、5)転移する臓器の中に浸潤、6)その臓器に着床し増殖、が必要です。がん細胞がこれらの過程を踏んではじめて転移が成立しますが、その途中で化学療法や免疫などから逃れて生存しなければなりません。それぞれの過程で様々な遺伝子の関与が考えられており、これらの遺伝子の発現の有無によって、それぞれのがんの悪性度が異なります。
 以上のように、がんの転移には様々なことが関与しています。多くのがんでは早期の段階では転移は少ないと考えられますが、増殖するに従って、様々な遺伝子を獲得していきます。その際に転移を起こしやすい遺伝子が発現した場合には、転移の可能性が高まります。また、様々な治療や自己免疫に打ち勝ったがん細胞が転移を起こすと考えられます。したがって、個々のがんの悪性度によって転移を起こしやすいか、起こしにくいかの違いがあり、現在転移の分子機構を明らかにする研究が盛んに行われています。

鹿児島大学消化器・乳腺甲状腺外科教授 夏越祥次

(出典 The Way Forward No.16, 2019年12月)

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