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胃がん予防に除菌の意味とは

 胃がんの原因としてのピロリ菌の存在がわかってから胃がんの検診はピロリ菌が陽性の人が受けるべきでピロリ菌が陰性の人は受けなくともよいといわれるようになってきました。ですからピロリ菌の有無をチェックしたうえで陽性者には除菌をすることが胃がん予防の第一歩であると考えられます。
 でも除菌をした後でも胃がんが出てくることがあるともお聞きします。これは何故でしょうか? 除菌活動を徹底することで胃がん死を年間500人まで減らすことが出来るといわれていますが、ゼロにするのはやはり難しいのでしょうか?

 ピロリ菌と胃がんの関わりが明らかになった後、除菌によって胃がんの発生が予防できるかどうかが大きな問題となりました。世界中からこのことを明らかにしようといくつもの臨床研究が立ち上がりました。しかしながら、ほとんどの研究は途中で研究を断念することになったのです。なぜなら、慢性胃炎からの胃がん発生率は0.5%以下できわめて少ないため、1000例程度の症例の解析では除菌、非除菌で有意差が出るような状況ではなかったのです。わが国の国立がんセンターでも計画されましたが、非除菌群の登録があまりに少なかったため、失敗に終わりました。そこで私は札幌にJAPAN GAST STUDY GROUP(JGSG)という大学、病院を越えた組織を創設し、胃がんの発生が最も多く観察される早期胃がんの内視鏡手術後の患者を全くランダムに除菌、非除菌に分け、3年間にわたって経過を観察したのです。その結果、除菌群は非除菌群より明らかに二次胃がんの発生が少ない結果が得られました。この結果は2008年のLancet誌に掲載され、世界各国から高い評価を受け、除菌の保険適用拡大にもおおいに役に立ちました。しかしながら、除菌は胃がん発生を抑制するものの、完全に抑制することはできないことも同時に明らかになったのです。萎縮性胃炎をベースに分化型胃がんは発生するので、萎縮性胃炎の中にがんの芽のようなものがすでに発生していたなら、除菌によっても胃がんの発生は抑制できないのではないかと考えられています。ですから萎縮性胃炎を持っている方は除菌成功後も1~2年に1回内視鏡によるサーベイランスが必要になります。このことにより、万が一胃がんが発生したとしても早期胃がんである可能性が高く、死亡する可能性はきわめて低くなるのです。 

北海道医療大学学長  浅香正博

(出典 The Way Forward No.16, 2019年)

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