肥満とがんとの関係については米国などでは多くの人を対象にした疫学調査などの報告があります。例えば、若いときに肥満であった人が将来がんになる割合は食道がん、胆のうがん、閉経後の乳がんはじめ多くのがんで高いという報告があります。しかし肥満の人とやせた人、標準体重の人では代謝がかなり異なり、また糖尿病などにかかっているかどうか、また人種や民族によっても異なるので単純に体脂肪などの多さなどで比較するのは難しいのです。
大谷直子博士(大阪市立大学)が肥満と肝がんの関係を実験的に明らかにされましたのでその一部をご紹介しましょう。ヒトの腸内には数百種の腸内細菌(腸内細菌フローラ)がヒトと共生しています。そしてヒトの免疫システムの調節や、ヒトが代謝できない物質を代謝し、感染の防御などの役割を果たしています。マウスの実験から肥満にともない炎症などでそのバランスが乱れ、胆汁酸の2次産物のデオキシコール酸が腸内に増加します。これが門脈をへて吸収され、肝臓で活性酸素の産生を高め、肝臓の細胞のDNAに損傷をあたえ、細胞の老化を促進します。これによりさらに肝がんの発生を促進する様々な物質ができ発がんするというものです。つまり肥満によって腸内細菌が乱れ、肝がんができ易くなるということになります。
最近注目されているNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)は脂肪肝からB型肝炎やC型肝炎などのようなウイルス感染がなくとも肝炎を発症することがありますがこの発症機構もこのような機構によると考えられます。
大阪国際がんセンター 谷口直之