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がんQ&A

がんを正しく知る

がんを正しく知る

がんの表記について

 世の中ではがんのことをカタカナで書いたり平仮名で書いたり、また漢字で癌と書くようなことがあります。いろんな書き方があっていいと思いますが、専門家の間ではその使い方に何か特定の違った意味あいがあるのでしょうか? また、この漢字の癌というものは中国古来のものではなく、中国の巖とがんから日本語の癌を独自に作ったとも聞いておりますが本当でしょうか?

 ご質問のとおり、いろいろな場面で、「がん、ガン、癌」という言葉が使われます。一般的に新聞記者の使用する新聞用事用語集(第13版)をみますと、病気のがんは、「一般的に「がん」と表記し、場合によっては「癌」も可能となっています。

 では平仮名の「がん」と漢字の「癌」の違いは何でしょう。体の主な臓器は五臓六腑といわれます。五臓とは肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓の事で、六腑とは胆嚢、胃、小腸、大腸、膀胱、三焦(さんしょう、これは対応する臓器がありません)です。この中で、心臓と脾臓を除いた主な臓器から発生するものを漢字で「癌」と書きます。実際には加えて口腔内、食道、皮膚、卵巣、子宮から発生するものも「癌」です。専門的には、臓器を構成する細胞間の接着性が強い「上皮系の悪性腫瘍」が「癌」です。漢字の「癌」は全体の癌の90%を占めます。

 その他、からだの内部、特に骨、筋肉、脂肪、血管、血液、リンパ節、脳からも悪性腫瘍が発生します。これらは、肉腫、白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍などと呼ばれます。新聞紙面などでは、漢字の「癌」とその他の悪性腫瘍を全てを含めて広くひらがなで「がん」という総称で表現しています。病院も「国立がん研究センター」などと表記されています。からだの全ての「がん」を診る病院という意味です。

 ではそもそもなぜ、「がん」とう呼び方をするのでしょうか。それは、がんの性質上、しこりが体の中にできるため、岩のように硬い性質に由来します。漢字の癌は岩山(巖:音読みガン、訓読みいわお)を表す嵒(がん)にヤマイダレが当てられたもので、我国で作られたという説もありましたが、最近では宗の時代1264年の漢方の書の「仁斎直指方」などで「癌」の文字が認められており、古代中国に由来する文字という説が優勢です。実際江戸時代には花岡青洲ら医師は「乳巖」「乳岩」などと記載しており、「巖」や「岩」という文字が用いられていました。

 病気の名前は一人一人の患者さんにとって大変重いものです。我々診断病理医はそのことを厳粛に受け止め、常に最新のがんの診断方法を学びながら、その表記方法、言葉使いにも細心の注意を払って、日常病理診断にあたっています。

 

北海道大学大学院医学研究院腫瘍病理学教室教授 田中 伸哉

出典 The Way Forward No.18 2020年

 

 

 

 

 

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