ユマニチュードという新しいケアのあり方を耳にするようになりました。従来皆さんが考えているケアのなかでどういう点が新しいのでしょうか? ユマニチュードによってケアの高い効果を期待できるとすると、それはなぜでしょうか? そのコツをお教えいただければと存じます。
ユマニチュードはフランス発のコミュニケーション・ケア技法です。認知症の人の行動が劇的に変わるとメディアで取り上げられたことから認知症のケア技法として日本では知られるようになりましたが、ケアが必要なすべての人に使うことができます。
ユマニチュードはフランス発のコミュニケーション・ケア技法です。認知症の人の行動が劇的に変わるとメディアで取り上げられたことから、日本では認知症のケア技法として有名になりましたが、実はケアが必要なすべての人に使うことができます。
私は昨年、ユマニチュードをコミュニケーションの観点から分析した著書(『築くケア技法ユマニチュード 人のケアから関係性のケアへ』誠文堂新光社)を刊行し、この技法についての研究をしながら、医療系大学の授業や、医療従事者への研修会で教えています。
私から見たユマニチュードの独自性は以下の5点です。
1)「見る」「話す」「触れる」というコミュニケーションを独特の方法で行う。
2)複数のコミュニケーションを同時に意識的に行う。
3)コミュニケーションを活用しつつ、ケアを定められた一連の手順で実施する。
4)ケアに立位や歩行を取り入れ、心身の機能の向上や維持を図る。
5)独自の哲学に基づき、人間らしい生活、本人の選択を徹底的に尊重する。
このうち効果と新しさという点でユマニチュードに特徴的だと考えられるのが、「見る」「話す」「触れる」という3つのコミュニケーションを「特定のやり方」で「同時に行う」ことです。見るときは、相手に正面から近づき、水平にしっかりと視線を合わせます。話すときは優しく、ポジティブな言葉で、途切れなく話します。触れるときは広い面積で、優しく、ゆっくりなでるように触れていきます。ケアをするときは、「見る」「話す」「触れる」のうち2つ、できれば3つを同時に行い、常に心地よい感覚が伝わるようにします。
このようなユマニチュードの特徴に目をつけたのが情報学の研究者たちです。ユマニチュードにより、複数の感覚器から入力された「快」情報が脳に伝わることで行動に変化が起きるという仮説のもと、効果をAIなどの技術を使って検証するプロジェクトが進んでいます。
ユマニチュードは、慢性期病棟や介護施設だけでなく、急性期病棟や集中治療室でも活用され、早期離床や症状の緩和に役立つことが確認されています。集中治療室では、せん妄と身体抑制が少なくなることが明らかになりました。がんの緩和ケアに取り入れたら、患者とコミュニケーションが取れるようになったと話す医師もいます。今後は、がん患者のケアへの効果の検証も進むと思います。
北星学園大学文学部心理・応用コミュニケーション学科教授 大島寿美子
出典 The Way Forward No.17, 2020年