SCSF 公益財団法人札幌がんセミナー

PAGE TOP

がんQ&A

公益財団法人札幌がんセミナーTOP / がんQ&A / 高齢者の免疫療法について

がん治療について

がん治療について

高齢者の免疫療法について

 日本人の平均寿命が80歳を超えるようになったのはこの30年である。江戸期から1950年ころまで寿命は50歳前後であった。エネルギー需要が高騰し、社会は未曾有の高齢化社会に入り医療政策の転換を模索している。ヒトはなぜ生殖年齢をはるかに超えて社会に生きるように進化したのか? サカナや虫は卵を産めば死ぬ。近縁の霊長類でも高齢個体は群れを外されて野垂れ死ぬ。孫を看るプログラムを実行している種は極めて限られる。高齢者が健康に老いて次世代を育むことは生物としても難しい。

 がん、血管障害、認知症、糖尿病は加齢とともに進む慢性炎症の一面がある。地球の生命は酸素で炭素を燃やすエネルギーの活動形態を選択し、これを脳に費やしてヒトまで進化した。燃焼の調節は細胞の老化とともに衰えるらしい。高齢者の炎症はメタボローム、感染に修飾されて生活習慣病に発展する。がんは最も深刻である。手術、抗がん剤、放射線など炎症を伴わないがんの治療法はない。免疫を体調に合わせて増強する薬は開発されてないが、炎症を促進しない免疫療法があるなら高齢者のがん、感染症の治療に貢献するかもしれない。

 私たちは1995年大阪府立成人病センターの頃に豊島久真男先生からこのテーマを頂き、長く無害の免疫増強薬を考えてきた。免疫活性化と炎症性サイトカインは自然免疫の別の経路で起る。免疫を高めても炎症を促進しない免疫増強剤を創薬できないものか? まだ臨床試験前に偉そうに言えないが、20年以上の成果は手応えがあり、がん免疫を起動しながら炎症を起こさない創薬が着実に出口に向かっている。毒性のない免疫療法が構築できれば生活習慣病を改善しうる。

 長く生きるとは不自由に慣れていく過程にも見える。しかし、高齢だから衰える、は当たり前ではない! 遺伝背景や生活環境プログラムの改編もあるが、差し迫った問題には免疫薬理学的なアプローチもありうる。私は札幌で父親を葬送し、母親を看取ろうとしている。毎週特老施設を見舞う。親は転ばぬ先の杖であるが、高齢とはこういうことだ、と最後に伝えている。医療政策は物理的な長命ではなく、現場の高齢者の緩和に務めることが望まれる。

北海道大学大学院医学研究科免疫学分野客員教授 瀬谷司

一覧へ戻る